ルッソ兄弟がドラマ化「魔王 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男」

映画アベンジャーズ「インフィニティー・ウォー」、「エンド・ゲーム」のルッソ兄弟がドラマ化を決めた犯罪ノンフィクション。
ドラマなのは時代性もあるだろうが、本としてもかなりボリュームがあるからかと。
2時間半じゃとても無理。


本書は合法処方薬のオンライン販売事業で莫大な資産を築き、それを足がかりに麻薬、武器取引に手を染め、国際的裏社会の権力者になろうとした、ポール・ル・ルーの物語だ。

フィクションよりフィクションらしく、フィクションよりはるかに複雑なピースからなっている。


魔王: 奸智と暴力のサイバー犯罪帝国を築いた男


今アメリカで問題になっているのは、非合法な麻薬ではなく、オピオイドに代表される処方薬の鎮痛剤中毒だという。
この種の強力な中毒作用のある鎮痛剤は毎日130人もの命を奪っており、”オピオイド禍”と呼ばれている。

中でもオキシコンチンという銘柄の薬剤は製薬会社のロビー活動や政治献金のせいで、他のオピオイド剤と同様の中毒性、乱用の危険性があるのも関わらず、それを長年ふせてきたことが問題視されているとなにかの記事で読んだことがある。

非合法の薬物は、そもそもが危険性をわかっていて自ら求めるのだから自業自得とも言えるが、処方薬はケガの治療などがきっかけとなるのだからタチが悪い。

著者が魔王と呼ぶル・ルーが目をつけたのも、この種の処方薬。しかもオキシコンチンのようにメジャーなものではなく、当時は規制の厳しい処方薬に指定されていなかった鎮痛剤だった。
いずれもオピオイドほどではないにしろ、アヘンを材料に製造される依存性のある鎮痛薬だ。

まあ抜かりないですね。

そのオンライン事業は、コールセンター、医師、薬剤師、アフィリエーターから成り立っていたが、コールセンターのスタッフや各々のアフィリエーターはもちろん、医師や薬剤師も何の違法性も感じていなかった。
それどころか、ある医師は、実に社会的意義ある事業だとも感じていたほどだ。

なぜなら、アメリカは医療費が恐ろしく高い。
実際に病院にいき医者の診察を受けて処方箋をもらうのは患者にとって経済的負担が大きいが、オンラインならば安く済むからだ。

実際オンライン事業に携わった医者自身にとって、莫大な奨学金の返済にはうってつけのアルバイトでもあったし、薬剤師にとっても経済的見返りは魅力だった。


もともとル・ルーという人は、南ア出身の非常に優秀なプログラマーだった。
あのエドワード・スノーデンが愛用していた暗号化プログラムの元となったプログラムを単独で開発したほどだ。

彼は、アメリカ政府のエリートハッカー集団をしても破れない技術を創造できる頭脳を持っていた。従来の麻薬王とは全く異なるタイプだ。
そして、誰も信用せず、インターネットを通じて全てをたった一人で牛耳っていた。

オンライン薬局事業だけで辞めておけばよかったのに。
それで巨万の富を築いたのだし、その時点では彼のやり口は用意周到だったため違法ではなかったのだ。

だが、彼はここから突如として荒っぽい世界に足を踏み入れていってしまう。
北朝鮮のメタンフェタミン、コロンビアのコカイン、イランとの武器取引・・・そして殺人。


なぜ才能に恵まれた優秀なプログラマーが、世界的カルテルのボスになったのか?

ル・ルーには他にも多くの「なぜ」が存在する。
だが、ミステリーと違って、その答えは人によって様々だろう。
著者自身はその答えをル・ルーの生い立ちに求めようとしている。
しかし、ル・ルーの出生は確かに物悲しいものではあるが、彼は義父母に愛されて育っている・・・

強いていうなら、それはある種の依存症のようなもので、スリルと見返りがどんどんエスカレートして行った結果ではないかという気がしたな。


FBIの捜査官、麻薬取締局、疑心暗鬼の末にルー・ルーから命を狙われるかつての部下、親戚、大勢の関係者の声に耳を傾け、実に4年以上の歳月を費やし描かれた魔王の物語は群像劇のようでもあり、読み応えがある。

ドラマも楽しみ。


 

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