元麻薬弁護士が描くクライム・リーガル・スリラー「麻薬王の弁護士」

タイトルの通り、主人公のベンは”麻薬王たちの弁護士”だ。
国外犯罪人引き渡し協定によって米国で禁固刑を受ける麻薬カルテルのボスたちを司法取引で減刑に持ち込むのが仕事だ。
金にはなるが、いつまでもは続けられない。麻薬ビジネスに関わる者の寿命は短いのだ。
だが、引退後も今の贅沢な生活を続けるには資金が足りない。
ベンは引退を可能にしてくれるだけの報酬を払える超大物クライアントを切実に欲していた。
そんな時、ベンの元に莫大な利益が見込める案件が3件も舞い込んでくる。
なかでも大物はソンブラ(影)と呼ばれる正体不明の麻薬王だ。コロンビア一の大金持ち。そして彼の正体は誰も知らない。
渡りに船とばかりに、依頼を引き受けるベンだったが・・・



麻薬王の弁護士 (ハヤカワ文庫NV)


本書が面白さはなんといっても主人公の設定にある。
「ブレイキング・バッド」やNetflixの「オザークへようこそ」などもそうだが、麻薬ビジネスの危険さ、手を引こう引こうと思いつつ抜けだせない葛藤はエンタメ要素満点。

しかし、本書の場合はもう一捻りある。実は著者自身が「元麻薬弁護士」なのだ。それもかなりの辣腕だったという。
餅は餅屋とはよく言ったもので、ことリーガルものは門外漢が描く一味違う。
フィクションではない部分も多くあるのだろうという想像も膨らむ。

ベンが扱うのは”普通の案件ではないため、犯罪小説の要素も大きい。クライアントとの念の入ったやり取りもスパイ小説さながらで、麻薬弁護士も楽じゃないなと思う(苦笑)
難をいえば、おそらく読者は早い段階から”ソンブラ”の正体の検討はつくと思うのだが、それはご愛嬌かな。

舞台もニューヨーク、パナマ、プエルト・リコ、コロンビアと中南米の麻薬地帯を網羅する。この辺りの雰囲気もまたいい。


今年は、ドン・ウィンズロウの「犬の力」「ザ・カルテル」に連なる新作がでるそうで、そちらも楽しみにしているが、それらとはまた違う視点で楽しめる。

ところで、Netflixのドラマ「オザークへようこそ」の主人公の会計士の13歳の息子が学校教師に向かっていうセリフに、「リーマンショックが起き、どこにも現金がなくて困った時、頼ったのは麻薬資金でした」というのがある。
皮肉なことに、実際にその通りで、その有り余る現金があったからこそ、アメリカ経済は立ち直れたとも言える。
本書の主人公、ベンが最後に取引に使おうとするネタもこの類のもので、世界は灰色でできているとつくづく思う。

著者の投影ともいえるベンは、モラルは限りなくグレー、金と贅沢が大好きで女好きだ。本書にも3人の美女が登場するが、それぞれ彼を悩ませる。

本書には続編があるとのことで、ベンの”引退”はまだしばらくお預けのようだ。というより、これ以降のほうがどちらかというと本番なのではないかという気もする。
今回登場したうち2人の女は今後も彼を悩ませ続けるのだろう。
第一弾の売れ行き如何で日本では続編がでないことも多くあるから、ネトフリかプライムビデオかなにかでドラマ化してくれないかな?


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