フィクション

話題沸騰!中国発SF三部作「三体」

2019-07-23

本書は中国初、アジア人作家としても初めてのヒューゴ賞受賞作。
その話題性からして、今年のエンタメ界の目玉になるのじゃないのかな?
何にせよ、中国パワー恐るべし。

  三体

物語は文化大革命の嵐が吹き荒れる中国で幕をあける。
正確には無産階級文化大革命と呼ばれる毛沢東主導による革命は、その名の通り、旧地主や富農、知識人たちといった有産階級の人々を反革命分子と定義して攻撃、迫害したものだ。

本書の主人公の一人である葉文潔(ヨウ・ブンケツ)も物理学者の父親を処刑され、自らもまた反革命分子に認定されてしまう。罠にかけられ、反革命罪に問われるが、彼女がかつて書いた論文が軍関係者に評価され、あるプロジェクトにスカウトされる。それは、紅岸プロジェクトと呼ばれる軍の最高機密プロジェクトだった。
この紅岸プロジェクトで起きた出来事が、全ての始まりだった…

時は流れて四十数年後の現在、ナノテク素材の研究者・汪淼(オウ・ビョウ)は、ある会議に強引に招集される。主催は中国陸軍高官の常偉思(ジョウ・イシ)だが、そこには中国のみならずNATOの将校やCIA幹部の姿が…
汪淼はこの二ヶ月で世界的物理学者が次々と自殺を遂げている事実を知らされる。そして常偉思(ジョウ・イシ)から、自殺した学者たちが属していた《科学フロンティア》という学術団体に潜入し、スパイをしてほしいと依頼される。
常偉思の部下の史強(シ・キョウ)に挑発され、半ばやけくそ気味にこの依頼を引き受けた汪淼だったが、その直後からありえないはずの不気味な現象に見舞われる…

登場人物が皆中国名なのも最初は戸惑うかもしれないが、心配無用。すぐに慣れる。

ちょうどミチオ・カクの「人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ」を読んだばかりだったので、余計に期待しワクワクしたし、アシモフの「夜来たる」をちょっと思い出しもした。
もしかしてあの名作も下敷きの一つになっているのかもしれないが、さすがにもっと今日的。国際政治的な意味で(苦笑)

タイトルにもなっている『三体』とは、作中《科学フロンティア》の広めたVRゲームのことでもあり、いわゆる古典力学の「三体問題」のことでもある。興を削いでしまうといけないので、詳細は避けるが、このVRゲームの意味と「三体問題」自体がこの物語の核となっている。

ただ、この本の弱点はその実、科学の正確性にある。
物理や数学に詳しい方には、その怪しさにイライラしてしまうのではないか。しかも知識の披露が多い割に全く論理的に展開されない。
私にわかる範囲でも、例えばカルダシェフの文明の尺度は、「通信に使えるエネルギー量」によって分類されるのではなく、その文明の「エネルギー消費量」に基づき分類される。
これではまるっきり意味合いが違ってくる。
一般に使われている尺度や定義くらいはきちんとしようよ・・・。

このエネルギー消費量に基づき、タイプⅠ文明、タイプⅡ、タイプⅢに分類される。各段階の文明の規模は前段階の100億〜1000億倍に相当する。ちなみに私たち地球文明はタイプ0.7の段階だそうだ。そして最も移行が困難なのは、タイプ0からタイプ1へのものだ。温暖化や生物兵器、核の拡散など、移行の際に直面する破滅の危機は自らが招くものだとも言われている。

些細なことのみならず、そもそもの物語の根底もやや危なっかしい。
中国贔屓のオバマ元大統領には絶賛されても、博士号を持つ層には受け入れられないだろうな、と思っていたら、まさにそういうレビューがあって、やっぱりなという感じ。

とはいえエキサイティングではある。映画インデペンス・デイがそうだったように、異星文明が地球にやってくるというテーマは、それ自体興味をかきたてられるものだ。
たとえ、それを迎え撃つのが世界でもアメリカでもなく、中国であったとしても・・・

劉 慈欣の処女作「流転の地球」は1億ドル以上の制作費をかけて映像化されNetflixで配信中だという。でも本書「三体」は実写よりアニメ向き。

もう一つ特筆すべきは、冒頭部分の葉文潔が体験した文化大革命時の描写だろうか。著者は1963年の生まれだというから、自身の実体験も少なからず反映されているのだろう。本書における葉文潔のパートのウエイトは感情的に非常に大きい。重奏的に物語を通じて効いている。

その文化大革命から四十数年・・・
今や中国は、宇宙開発においてもアメリカに比肩するほどになり、こうしたエンタメ小説が誕生したという事実にも改めて驚かされる。

  

 

 

 

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