SFファンなら必読!ミチオ・カク「人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ」

著名な理論物理学者ミチオ・カク博士による人類の未来を示す科学本。
A・アシモフを例にあげるまでもなく、SF作家の多くが科学者であることは、もはや必然になっているが、本書もSF以上にSF的だ。
今日び、SF小説を読むのもなかなか大変で、科学的事実を知っていると知っていないとでは理解も変わってくる。
読みやすいので、SFファンやフィクションしか読まない方にも是非おすすめ。



「人類、宇宙に住む: 実現への3つのステップ」


人類がやがて宇宙に住むようになる。これが本書のスタート地点だ。
地球上の多くの種が絶滅してきたように、人類にとっても絶滅は避けがたい事実だ。短いスパンでみるなら、地球温暖化や人口爆発による資源の枯渇、そこから生じる愚かしい最終戦争、もっと長いスパンでみるなら小惑星や彗星の衝突、そして太陽の終焉。
かつてカール・セーガンが言ったよう「我々にはバックプランが必要」なのだ。我々は、いくつもの星々にまたがって暮らす「多惑星種族」となる運命なのかもしれない。

手始めは月への宇宙旅行や火星への入植だ。
これについては、そう遠くない将来、実現可能な段階にきている。それを牽引するのは、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスや、ペイパルとテスラとスペースXの創業者であるイーロン・マスクといった億万長者たちだ。
彼らにとって宇宙は単なる憧れや夢ではない。宇宙には未知の資源が眠っている。地球の資源は枯渇しつつある中にあって、宇宙は魅力的な鉱山でもある。

もちろん現時点においては、火星をテラフォーミングするにあたっては、難しい問題が多々ある。だが、22世紀初頭にはナノテクノロジー、バイオテクノロジー、AIの成熟によって大きく進展しているだろうという。

そして我々は、数千年前のポリネシアの人々が島伝いに徐々に移動していったのに倣い、居住地を広げていくだろうとカク博士はいう。

でも、先だって発見された人類が生息可能な星のなかで最も近いとされる星ですら、何光年もかかるのだから無理なのでは?
これらにもちゃんと答えは用意されている。

「ホモ・デウス」でユヴァル・ノア・ハラリは「人類は神を目指す」と述べたが、まさにその通りなのかもしれない。宇宙に居住するにあたって、今のままの脆弱な身体では都合が悪いし、私たちはすでに自らの遺伝子を編集するという手段も持っているのだから。
「人工知能 人類最悪にして最後の発明」でバラッドが警告しているように、やがてAIは自我を持ち暴走し、やがて人類の敵になるかもしれない。
ただ、虚弱な人類にとって短期的にはAIやロボット工学は宇宙開発に不可欠だ。

私たちはどこかで躓き滅びてしまうかもしれないし、生き残ることができるかもしれない。
生き残ることができたとして、遠い遠い未来、我々の文明が、やがてこれ以上ないほど進化した時に起りうることは、なんとも形容しがたい。
今日の私たちは祖先が何万年もの月日をかけて移動した距離を、飛行機でひとっ飛びできるようになった。それと同様に、進化の最終系に近いまで文明が発達したとき、人類は超光速航海が可能となり、時空すら越えられるかもしれないという。

面白いのは、物理を突き進めて行くと、不思議と哲学的なこと、神学的なことに突き当たるということだ。
アインシュタインの相対性理論と量子論を結合させる唯一のものが「ひも理論」だそうだが、この奇妙で難解な理論は、宇宙は10次元から成り立っているというものだ。
博士はこの理論を用いて、ビッグ・バンと並行宇宙を、キリスト教の天地創造と仏教の涅槃になぞらえる。

かつてマルチバースについて、いくつか科学系読み物を読んだこともあるが、「ひも理論」についてこの本ほど分かりやすいものはなかった。
と同時に、博士のポジティブな思考に勇気づけられもする。


 



 




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