フィクション

倉内くんプレゼンツのパラレルワールド「ダーク・マター」

2017-11-16

倉内くんというのは、あの「ウェイワード・パインズ 三部作」のブレイク・クラウチ。
え、これ続きがあるの?!という驚きの展開が楽しいSFで、フォックスでドラマ化もされた。小説は読んでないけど、ドラマは観てるという方も多いかもしれない。

そのクラウチの新作が本書「ダーク・マター 」なのである。

「パインズ」 とは全く毛色は異なるが、本書もまたSFだ。
ちなみにタイトルにもなっているダーク・マター(暗黒物質)とは、仮想上の物質のことで、質量は持つが光学的に直接観測することはできない、つまり見えないものだという。
何がなんだかよくわからないが、目に見ることのできる物質だけでは、回転する銀河の遠心力と重力の釣り合いが取れず、銀河内の星を繋ぎ止めておくだけの重力が足りないために考え出された物質のようだ。
余計なんだかわからなくなった気もするが、「あるのは確実だが決して目には見えないもの」、本書ではこのことが大きな意味を持っている。
それと多元宇宙が。  

 

この小説をより楽しむには、多元宇宙論を知っていたほうがいいのではないかと思う。
おすすめは、少し難しいがブライアン・グリーンの「隠れていた宇宙 」
超ひも理論は私には難しくてよくわからなかったが、多元宇宙論に関しては面白く読めた。なかにはSFとしか思えないような多元宇宙論もあり、きっと想像しているよりも楽しいのでお暇な方は是非。

本書の主人公は2流大学のしがない教授ジェイソン・デスセン。若い頃は原子物理学の分野で新星と持て囃された気鋭の学者だった。
学者は30才までに重要な論文を発表しなければ、昇進の見込みはなくなる。ジェイソンは息子チャーリーが重篤な疾患を抱えていたため、それができなかったのだ。最先端の学究と栄光の代わりに手に入れたのが、妻ダニエラと一人息子チャーリーとの穏やかな毎日だ。

しかし、学生時代の旧友が名誉ある科学賞のパヴィア賞を受賞したと知って、内心穏やかではなかった。もしも、自分がダニエラと結婚せず、研究の道に進んでいたならば、この栄光は自分のものだったかもしれない。
その授賞祝賀会に顔を出した帰り道で、ジェイソンは何者かに拉致されてしまう。着ているものを全て脱ぐよう言われ、何かを注射され、新しい服を着るよう指示される。「手にいれられなかったものが君のものになる」男はそういい、ジェイソンの意識は遠のいた。

気がつくと、ジェイソンは見知らぬ施設の中にいた。そこでの彼は、一目置かれる優れた物理学者だった。皆が14ヶ月もジェイソンの帰還を待っていたという。
戸惑いを覚えたジェイソンは自宅に帰るが、そこにはダニエラもチャーリーもおらず、家は贅沢でよそよそしく、生活感がない。
そして寝室にはパヴィア賞の証書が・・・

 

そう、お察しの通り、ジェイソンは別のパラレルワールドへと移動してしまったのだ。それは、昔、ダニエラが妊娠したと言ってきたとき、彼女と結婚せず、学究の道に進んだジェイソンの世界だった。

私たちが何かを思いつくたび、何かを選択するたびに、新たな世界が枝分かれし、パワレルワールドは増えていく。それらのパラレルワールドには、そうしなかった自分が存在する。
ちょうどこの本を読んでいたのは、スマホを紛失したときだったので、それを紛失しなくてことなきを得た世界というのを想像して後悔したものだ(笑)小さいなぁ私。しかも、その後、無事に出てきたし。
今でいえば、暴行事件で大騒ぎの横綱日馬富士は、あの時の衝動を抑えていたら・・・と思っているのではないだろうか。別の世界には横綱でいられる日馬富士がいる。

それらの世界は、ダークマター同様、目にみることはできないが、存在していると考える方が理にかなってもいる。

我らがジェイソンは、ありえたかもしれない別の世界にやってきたが、それはやはり自分が望むものではないと思って、元の世界に戻ろうと奮闘する。

今、私たちがいる世界は、私たち自身が選択してきた結果だ。そんな当たり前のことをしみじみ思わせる。
不思議なことに、最先端物理はとても哲学的だ。

前作「パインズ三部作」は、絶対もうここでお終いでしょうという状況から、第二部、三部が「しれっと」始まったのだが、本作こそ続編がありそうなのに、これでお終いとは!
まだまだ倉内くんワールドを楽しみたいし名残惜しいが、これはここで終わったほうがいいのかなと思い直す。
また、本書もドラマ化される予定らしい。

 

  

 

 

 

 

 

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