近未来、完全に消費可能なレプリカントの誕生もありうる?「合成生物学の衝撃」

もしも人造人間というものが誕生するのなら、それはAIを搭載した精密な機械だろうと思っていたが、本書を読んで、それは生身の人間なのかもしれないと思い直した。
自分の常識を覆す知識が得られるのも読書の醍醐味だ。

 
「合成生物学の衝撃」

スマートフォンしかり、自動運転しかり・・・かつてのSFのガジェットは、次々と現実化している。
「完全に消費可能な人間」の誕生も、決して絵空事などではない。この「完全に消費可能」という言葉のインパクトはものすごいものがある。
遺伝子操作によって過酷な環境に耐性を持つ人間兵器をつくることすら可能になるかもしれない。
彼らには生物学的な親は存在しない。彼らのゲノムはコンピューター上でデザインされたデジタル情報なのだから。

まるで映画版のブレードランナーの世界のような話だ。
映画版ブレードランナーでは、遺伝子工学によって誕生したレプリカントといわれる人造人間が、過酷な宇宙空間での開拓や戦闘といった奴隷的な仕事に従事させられている。

現実世界でも、2050年には世界人口は100億に迫る勢いであると予想されている。もはや地球上ではまかないきれず、居住を宇宙に求めるのは必至だ。実際に火星のような惑星で暮らすための遺伝子的特性を研究している科学者までいるという。
まさに世界はブレードランナーに近づいている。
もしうっかり長生きしようものなら他人事ではないわ…

コンピューター上で「生命の設計図」であるゲノムを設計し、その情報に基づくDNAを合成しまたは改変したDNAを持つ新たな生物を作る。
それが「合成生物学」だ。

あのビル・ゲイツに「私がティーンエイジャーだったら、生物学をハッキングするだろう」といわせるほど勢いのある分野だという。
しかも、それが最も盛んな米国では、多くの研究者のパトロンは通称DARPAといわれる国防総省の研究機関であり、その資金は恐ろしく潤沢だ。

もちろん人間にとっての有用性も多くあり、難病の克服、バイオ燃料の開発に砂漠の緑化や害虫駆除などなど、その恩恵は計り知れない。
ただ、ゲノム編集の技術によって遺伝子異常が原因の病気を克服できる反面で、その技術で兵士に成るべくデザインされた人間さえも作れるし、農業の救世主であると同時に、農業を完全に破壊してしまう危険性もある。

問題は合成生物学の技術が難解で馴染みがないため、一般の人は理解しにくく興味を持ちにくいことだ。そのため一般レベルでは議論のないままに技術だけが突き進んでいく可能性もある。

CRISPER-Cas9という、ピンポイントでゲノムを編集可能にする技術が生まれたとき、生みの親である科学者はその著書で、この技術を福音とするのも災厄とするのも我々次第であり、分野を超えた議論が必要であると問題提起した。

現在では、そのCRISPERのシステムをゲノムそのものに挿入し、生物がそもそも備えている「遺伝子ドライブ」という現象を利用して、改変された形質を野生集団に広めていくことまで可能にまでなっている。
私の解釈では、例えばCRISPERの技術でアゲハ蝶の羽の色を赤くする形質を一匹の蝶のゲノムに挿入すれば、何世代かのちには自然界には赤いアゲハ蝶しかいなくなるということだ。
CRISPER技術自体は安価なものだというから、もしかして高校生がその気はなくとも一生態系を滅ぼすことさえないとは言えない。

もし、火星などの惑星に耐性のある人造人間が一人誕生し、彼もしくは彼女が従来の人間との間に子をなせば、その形質はいずれ人類全体のものとなるだろう。
ただ、そもそも人為的に作られた人間は、社会にどう迎えられるのだろうか。
歴史を振り返っても、人間というものは差別を好む傾向があるし、人種問題も民族間の問題ですら解決できていないというのに。
それに、生物学上の両親が存在しない彼らのアイデンティティは何に拠ればいいのだろうか。

本書ではプロローグとエピローグにカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」が引用されているが、この本の後に改めて読んでみるともっと深く読めるのかも。
ああ、そういえばこの小説のことをイシグロは「SFではない」と殊の外主張していたが、人間の倫理を問うたものだったのだなと再認識した次第・・・

AIが恐ろしいまでの自己学習能力を備え、その知能がシンギュラリティを迎えるとき、「人工知能 人類最悪にして最後の発明」になってしまう恐れも指摘されているが、合成生物学においても同種の問題が立ちはだかる。

未来は機械VS人間のターミネーターのような世界でも、レプリカントVS人間のブレードランナーのような世界でもなく、レプリカント、人間の三つ巴だったりして。
というかAIとレプリカントか。

 

    

 

 

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