特捜部Q 吊るされた少女 / ユッシ・エーズラ・オールスン

「特捜部Q」のシリーズももう6作目だ。
まだこの「特捜部Q」のシリーズを手にしたことのない人にとっては、過去の5作品を読むのはかなり億劫だと思う。しかもどれも割とボリューミー。
でも、このシリーズは、読まなくてはもったいないくらい面白いのだ。

「特捜部Q」というのはデンマークはコペンハーゲン警察内に政治家の肝いりで新設された、いわゆるコールド・ケースを扱う部署だ。といえば聞こえはいいが、オフィスはビルの地下で、予算のほとんどを殺人課にもっていかれてしまう窓際部署。
そのQを率いているのが、あまりやる気のない刑事カール・マークなのである。カールの他に”刑事”はおらず、雑用係として雇われているアサドと、他の部署から厄介払いされてきたゴスメイクの事務職員のローセのみ (ローセは第2作の『キジ殺し』から登場)

大抵は、ローセが案件をみつけてきて、焚きつけられたカールは最初イヤイヤながら捜査する。だが、ローセの脅しや、意外にも優秀な助手であるアサドのアシストによって、カール自身も事件の真相解明にのめり込んでいくのだ。

本シリーズの面白さは、事件が内包している「社会問題」と、カール、アサド、ローセといった”濃い”面々が織りなす「ユーモア」にある。

趣向は毎回変わるものの一貫し社会問題を取り上げている。確固たるテーマを持って書いているので、訴求力もある。
何より、暗くて陰惨一辺倒の北欧ミステリのなかにあって、笑わせてくれるのが良い。特にアサドの「駱駝ネタ」はもはや定番だ。

 

さて、今回のコトの始まりは、定年間際の刑事ハーバーザードがQに電話をしてきたことだった。彼は、17年前にボーンホルム島で起きた少女轢き逃げ事件に執着しており、定年を明日に控えQに捜査を依頼してきたのだ。車に轢かれ跳ね飛ばされた少女が木に逆さに吊り下げされたまま絶命したという凄惨な事件だったが、事故だと断定されていた。少女の名はアルバーテ。輝くばかりの美しい少女だった。

忙しさを理由にカールはその依頼を断るが、なんと彼は自身の退官式の最中、自殺してしまう。そして自殺の直前にQに「Qは最後の希望だった。もう駄目だ。」というメールが送られていたのだ。それをローセから責められ、カールはメンバーとともに事件の舞台となったボーンホルム島へと赴く。

そこで目にしたのは、ハーバーザードが残したアルバーテ事件の膨大な資料だった。そしてハーバーザードの息子までもが自殺と遂げてしまう。
なぜハーバーザードとその息子は自殺したのか?
ハーバーザードはなぜ17年前の少女の事故死にそれほど拘泥していたのか?

一方、ロンドンでは、若く美しいワンダが、新興宗教に帰依するためにスウェーデンに向かおうとしていた。ワンダは教団を率いているアトゥの選ばれし女だと固く信じていたのだ。

島にとどまり、捜査をはじめたカールたちは、紆余曲折しつつも、ついにアバーテが当時夢中になっていたという男にたどり着くのだが・・・


正直言って、本筋の事件自体には (個人的には)それほど魅力を感じなかった。
新興宗教というテーマは割とありきたりだし、若干凡庸な感じも否めない。

しかしシリーズを通しての謎、第1作目「檻の中の女」で起こった「アマー島の事件」には大きな進展がみられ、「アサドの素性」についても大きなヒントが与えられている。

カールとアサドが出会ってからすでに7年。共に事件を解決してきた二人の間には、今や固い信頼関係ができあがっている。カールはアサドのことを「唯一、あてにできる人間だ」と思っているし、もしも引退したら一緒に「シリアンカフェ」をやろうとまで言い出すほどだ。

それに、なんといっても今回二人はひとつのベッドで一緒に眠ったことだし。

今回二人はかつてない危機に陥り、アサドはカールのために自らを犠牲する。このシーンは本作のクライマックスといっていいだろうし、あんなことをやられたら、もはやアサドが何者であってもカールには関係ないのかもしれないなぁとさえ思う。

カール、アサド、ローセの三人の今後を占う意味では読んで損はない。

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