ついに明かされたアサドの衝撃の過去!「特捜部Q アサドの祈り」

本書は、映画化もされている超人気シリーズ「特捜部Q」の最新作。
なんともうシリーズも8作目。毎回新鮮なので気づかなかったけど、カールとアサドが知り合ってからも10年が経つというから驚き。その分私もあなたもトシをとったわけですわ(苦笑)

シリーズの第8作目ともなると、従来の固定ファン以外にはなかなか手に取りにくいと思うけど、文庫化されて(比較的)安くなったし、「カルテ番号64」までは映画にもなっているので、この機会にぜひ!「Pからのメッセージ」まではNetflixで全部見られます(アマプラは現在はPのみ)


特捜部Q―アサドの祈り― (ハヤカワ・ミステリ)

タイトルの通り、謎だらけだったアサドの過去もついに明らかになり、シリーズとしてクライマックスに向かいつつあるなという感じ。
そう言えば、オールスンはこのシリーズを10作程度のシリーズにすると考えていると言っていたような。

カールの私生活にも大きな変化があるし、ローセも重量を増して完全復活。シリーズ第一弾で、アマー島の事件で大怪我を負い、首から下が麻痺してしまったハーディにも、またもや新たな進展が見られる。このアマー島事件の解決がクライマックスだろうなぁ。

物語は、キプロスの海外に打ち上げられた難民と思しき老女の遺体から始まる。

中東情勢の悪化に伴い、みすぼらしいゴムボート船で地中海を渡り、今も日々多くの難民がヨーロッパに押し寄せている。
業者は法外な料金を吹っかけるが、その船はとりあえず水に浮けばそれでいいという程度のものだ。運が良ければ慈善団体によって助けられるが、悪ければ溺死することになる。
このあたりの説明は、「西洋の自死」という本で詳細に説明してあるので、ご参考までに。

「犠牲者2117」と名付けられたその老女の写真は、新聞トップに掲載されるが、アサドはそれに打ちのめされる。
遺体の老女は恩人であり、彼女の背後に小さく映り込んでいた女性二人は、死んだと思われたアサドの妻と娘の姿だったのだ。そして彼の妻の横には、アサドの人生を破壊した男の姿が。

アサドはカールに自らの壮絶な過去を打ち明ける。
16年前、最悪の場所で、その男とアサドの間に起こった出来事の一切を・・・
その話に衝撃を受けたカールは、特捜部Qのこれまでの功績を盾に、上層部に条件付きで海外での捜査許可を得るのだった。

一方、特捜部Qのゴードンのもとには、数日前から引きこもりの少年から不穏な電話がかかってきていた。2117という数字にこだわっている彼はどうやらすでに父親を殺したようだった。

特捜部Qは二手に分かれ、アサドとカールは写真を撮ったカメラマンに連絡をとるためドイツへ、ローセとゴードンはコペンハーゲンに残り少年の件を担当するのだが・・・

以前からタダモノではないなとは思っていたが、本書を境に、アサドのイメージがガラっと変わる。
世界一幸福な国、デンマークで起こる陰惨な事件や深刻な社会問題と、アサドというキャラクターのユーモアとの絶妙なバランスがこのシリーズ最大の魅力だが、これ以降どうなってしまうのかと心配になるほど。
しかも、これでアサドが苦悩から完全に解放されたわけではないとところもね・・・

中東情勢悪化がヨーロッパ諸国にもたらす影響は、上記にあげた「西洋の自死」や「移民・難民 ヨーロッパ・ドイツの現実2011ー2019」等々に詳しいが、本書に描かれているのは、その恩に報いようと頑張る一人の移民の姿だ。アサドはそこまで頑張る必要があったのかと・・・やるせない気持ちにさせられる。

差別に嫌気がさし、ホームグラウンドテロリストになってしまう輩がいる一方で、真面目に頑張っている人がそのとばっちりを受けているのだろうななどと考えてしまう。
ただ、ヨーロッパとしても、無制限に受け入れ続けることもできないわけで・・・

 

サブ主題の「引きこもり問題」は、あえて対比させたのだろうが、効果は抜群。贅沢ができる社会ゆえの悩みとも言えるが、深刻な問題であるのも事実。
社会の不幸の形も実に様々ということだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

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