古き良きアメリカへの郷愁とロマンチシズム「11月に去りし者」

すべての始まりは1963年の11月22日のジョン・F・ケネディの暗殺。この出来事をモチーフにした小説は数知れず。本書もその一冊だ。

JFKは、アメリカ人に最も愛された大統領だろう。若く熱意にあふれたそのイメージもさることながら、当時アメリカ経済自体も黄金時代にあったのも大きい。
作中にも「黒人すらケネディに愛されていると思っていた」とあるが、彼は不当逮捕されていたキング牧師を釈放させ、差別を無くそうと訴えたことで、黒人からも人気が高かったようだ。
差別を煽ることで支持率を上げる戦法の今の大統領とは真逆。

11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

JFK暗殺を扱っているとはいえ、本書は「誰がケネディを暗殺したのか」がテーマではないし、それを明かすものでもない。

黒幕は最初からはっきりしている。カルロス・マルチェロ(マルセロ)という南部マフィアのボスだ。
本書の主人公フランク・ギドリーは、このマルチェロの組織で働いていたが、暗殺直後から身の危険を感じはじめる。
というのも、ギドリーはマルチェロの指示で狙撃犯の逃走用の車を準備したにすぎないが、マルチェロは暗殺に絡んだ人物を片っ端から消していたからだ。危険を察知したギドリーはニューオーリンズから遁走する。
一方、オクラホマの田舎町の主婦シャーロットは、アル中の夫に耐えかね、幼い二人の娘と”てんかん”持ちの犬を連れて古びた車で家出を目論む。


逃走中の男が子持ちの女と出会う。そして女に恋をする。ただそれだけなのに、なぜこれほど魅力的なのだろう?
例にたがわず、いつも男はロマンチストで、女は現実的でたくましい。

ただの恋愛小説に終わらせないのは、ギドリーを追う殺し屋のパートと、エピローグゆえ。このエピローグが効いていて、60年代の中に浸っていた読者を一気に現代へと引き戻す。そして時代の移り変わりを実感させる。

ルー・バーニーが醸すこの時代感と叙情性がいい。
でも、多くの作家が両手を挙げてこの小説を絶賛するのは、この時代の、古き良きアメリカへの懐古があるからではないかという気もする。
加えて現大統領と今の時代への反発も少なからずあるのかな?

この本が嫌いな中年以上の男性はいないのでは?

ところで、著者のルー・バーニーとは何者ぞや?
訳者の加賀山氏はあとがきで「本書を手にとっておられる方は、おそらくルー・バーニーをご存知で、新作を愉しみに待っておられたのではないか」とおっしゃっている。
私は例外だわね、と思っていたら、ワタクシも「ガットショット・ストレート」読んでますやん…
ああ、あれも確かにすごく面白かった!
再読したいけど紙の本しかないからなぁ…
電子書籍の利便性に慣れてしまうと、もうそれしか読みたくなくなってしまうジレンマ。

 

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