実は日本受けしないベストセラー作家は割と多いが、本書の著者ロバート・ポビは「なぜ、今まで翻訳されなかったの?!」レベル。
タイトルこそ凡庸だが、かなり面白かった。
マンハッタンの狙撃手 (ハヤカワ文庫NV)
主人公は元FBI捜査官の大学教授にしてベストセラー作家のルーカス・ペイジ博士。かつて職務中の事故で片目片腕片足を失った。
現在は妻エリンと5人の養子、犬と共にアッパーイーストサイドので平穏に暮らしているが、そんな彼の元に古巣から捜査協力の要請がくる。
真冬のマンハッタンで起きた狙撃事件の被害者がFBI時代の相棒だったのだ。
ルーカスの能力によって狙撃ポイントは明らかになったものの、依然として犯人もその動機も不明なまま、次々と法執行官を標的に狙撃は続くのだった…
ルーカスは一言で言えば天才だ。特に空間認識力に優れており、直観的に数値に変換できる能力を持っている。少しアスペルガー的というか、サヴァン並と言っていいほどの能力を持っているのだが、作中で言われるほどには性格は悪くないと思う(笑)子供にも犬にも人にも優しいし。
ありがちではあるが、事件を解決していくストーリーにはやはり天才がいた方がエンタメとして面白い。
凡人が寄り集まり地道な捜査の過程をじっくりと描き、むしろそれが好きな人もいるだろうが、それだとどうしても華やかさとテンポに欠ける。
次に大事なポイントは人物造形だ。特異にしすぎるあまり、全く感情移入できない主人公もいるが、そうなるとやはり面白さも半減してしまう。その点、ロバート・ポビという作家は魅力的なキャラクター造形がうまい。
障害を持つ天才といえば、まず思い浮かぶのはJ・ディーヴァーのリンカーン・ライムだが、タイプとしては似ているかも。
いかにも天才らしく気難しいという設定なのだが、子供にも犬にも愛情深く、決して嫌なやつではない(と思う)
彼に関わる情報は小出しにされていて、作中の回想シーンで明らかにされる部分もあるが、まだ謎が多い分後をひく。
ルーカスに限らず、相棒となる黒人女性捜査官ウィテカーや、ルーカスの家のガレージを間借りしている元戦場カメラマンのディンゴ、ルーカスの上司で、いつもファッション雑誌から抜け出てきたかのようにパリっとしているキーホーなど、濃いキャラクターも魅力的。
グレートデンとマスチフの交配種という犬のレミーの存在感も、私みたいな犬好きにはたまらない。
テーマとなっているのは、修正第2条だ。銃を持つ権利は、「怒り」と結びつき、銃乱射事件は後を立たない。人種間対立の溝はより深くなる悪循環に陥ってる。また、政府に対する不信も無視できない。
エンタメではあるが、現在進行形でアメリカ社会を悩ませている問題について、このタイミングで読めるという意義は大きい。
この小説に続編があるのは最初から決定事項だろうが、次作も楽しみ。ルーカスの亡き養母の言葉から、なんとなく株式市場にスポットが当たりそうな気がするのだが、どうだろう?
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