ミスター・メルセデス / スティーヴン・キング

「ミスター・メルセデス」は、キングの初のエドガー賞(長篇部門)受賞した話題作だ。

キングの懐が深いのは知っていたが、エドガー賞受賞とはさすが!

しかし、高いのだ。せめてKindle版はもう少し安くしてほしい。
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さて、物語はリーマンショックの経済危機にいまだ苦しむ2009年にさかのぼる。
市民センターの就職支援フェアの長い列に、突如グレーのメルセデス・ベンツが突っ込む。その頑強な車は、求職者たちを次々と跳ね飛ばし、死者8名という大惨事をもたらした。当然警察は捜査を行ったが、有力な手がかりもなく事件は迷宮入りとなった。
 
当時メルセデス・キラー事件を担当した刑事ビル・ホッジスも定年退職を迎え、今では安楽椅子で日がなビール片手にテレビを観る毎日だ。父親の形見の銃を手に、良からぬ考えを退けようとしていた。仕事一筋の敏腕刑事だった彼は、ご多分にもれず、妻とは離婚し孤独で生きがいを失っていたのだった。
そんなある時、ホッッジスの元に一通の手紙が届く。その手紙はメルセデス・キラー事件の犯人からで、今のホッジスを嘲笑うものだった。
ところがこの手紙がホッジスを変える。鬱に悩んでいたホッジスは、生きがいを取り戻すのだ。それというのも、メルセデス事件はホッジスが最も気にかけていた事件だったからだった。
 
一方のメルセデス・キラーこと、ブレイディは新しいゲームに取り掛かろうとしていた。
かくして、退職した元刑事と、サイコキラーの戦いは幕をあけるのだが…
 
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フーダニットとかホワイダニット系のミステリーではないし、警察小説でもない。主人公のホッジスはもう警察を定年退職している。どちらかというと犯罪小説だろうが、語りはソフトで柔らかい。
 
あとがきで翻訳者の白石氏は「キング流のハードボイルド」ともおっしゃっている。が、キングには悪いが、ハードボイルド的カッコ良さはほとんどない。でも、そこがいいのだ。
 
「ジョイランド」の語りは、なぜだか(というか想像通り)えらく先月の読書会では評判が悪かったのだが、それがダメな人には向かないと思う。たぶん若い人向きではないのかもしれない。ただ、主人公ホッジスに同化できる年齢層にははまるのではないかと思う。この世代はホッジス同様かつての仕事人間も多いだろうし。
そもそもこのホッジスはある種キングの投影だ。(またもや!)デブな老人なのに、魅力たっぷりの40代の女性ジャネルにモーションをかけられるところなどは特に(笑)
 
感心したのは、メルセデス・キラーことブレイディが、心理学的医学的見地から見た正しいサイコパスとして描かれていたことだった。
 
私もサイコパス関連の本を割と読むのだが、作家によっては読者の興味をひくためだけに、ありえないキャラに仕立てることもあり、時々閉口してしまう。キャラ構築に瑕疵があると物語自体も脆くなるのだ。
だが、ブレイディはそこに正しく位置している。しかも、そのサイコが育まれ、形成される過程をもきちんと描いてもある。さすがのキング品質だ。
 
キングのキャラ造形のうまさは折り紙付きだ。だからこそ、キング作品は筋やプロットオンリーではなく、登場人物との共感を楽しめる人に向いている。
 
ホッジス、黒人の少年ジェロームと「ぼそぼそ女」のホリーというトリオは、キング自身もお気に召したのだろう。なんと本書は三部作の第一作という位置付けなのだとか。
ああ、それでああいうラストにしたわけかと大いに納得したのだった。
 

 

 

 

 

 

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