前作「乗客ナンバー23の消失」の舞台は豪華客船だったが、今度は航空機。
主人公マッツは飛行機恐怖症の精神科医という凝った設定。
マッツが恐怖症を押してまでしてアルゼンチンーベルリン便の旅客機に乗ったのは、訳ありの娘のネレの出産に立ち会うためだった。
ところが離陸した矢先、マッツは謎の脅迫電話を受ける。彼が乗っている飛行機を墜落させなければ、娘とお腹の赤ちゃんの命はないというのだ。
マッツとネレ、二人に残された時間はベルリン到着までの13時間・・・
飛行機の中のマッツと、ベルリンで囚われの身となったネレの物語が交互に語られていく。
その過程で、登場人物が抱えている問題が徐々に明らかになる。飛行機恐怖症のマッツをはじめとして、誰もがワケありだ。
そして、予想はことごとく裏切られる。もう見事なまでに。
アクロバティックすぎて最後はちょっとあっけにとられるほどで、構成も入り組んでいる。
「閉鎖空間タイムリミットミステリ」と紹介されているし、実際そうなのだが、読後感はド派手なイリュージョンを見た感じに似ている。
ああ、こういうのがフィツェックならではだよなぁ。奇しくも作中にもその名がでてくるが、デビッド・カッパーフィールド的というか。
違うのは、本書では最後にその種明かしをしてくれることだ。
アクロバティックゆえに、「ええと…そこはどうなのよ?」という部分もなきにしもあらずだが、当のフィツエックも言う通り「人生こそがもっとも信じ難く、ありえない物語」なのかもしれない。
面白いので、つい怒涛の一気読みをしてしまうが、実は伏線やヒントが散りばめられていて、二度目はまた目線を変えて楽しめる。
フィツェックは遅筆ではないし多作な作家だが、訳者は次は精神病院の隔離病棟を舞台にした作品に取り掛かっているそうだ。
この閉鎖空間シリーズ(といっても別にシリーズではない)は、豪華客船、大型旅客機ときて次は病院なわけか。本書よりさらに複雑で凝ったものに仕上がっているというから楽しみ!
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