死んだライオン / ミック・ヘロン

「窓際のスパイ」のジャクソン・ラムとその仲間たちが帰ってきたー!
オナラの帝王、ラムと「泥沼の家」の面々が帰ってきたー!
 
本書「死んだライオン」は「窓際のスパイ」の続編であり、CWAゴールドダガー受賞作なのである。どれほど、これ(のKindle版)を待っていたことか。「このミス」をはじめ、なぜかあまり話題にはならなかったが、この「窓際のスパイ」のシリーズは超面白いのだ。
 

 

 
本書は、左遷され閑職に甘んじている窓際のスパイたちの物語だ。
彼らの部署、通称「泥沼の家」は仲間内では”掃き溜め”という位置付けであり、たいていのものはここに配属されるとすぐに辞めていく。それこそが「泥沼の家」の存在理由だ。彼らは「遅い馬 Slow Horse」とも呼ばれている。Slough HouseのSlow Horseというわけだ。
 
ここのメンバーは、皆何がしかのミスをやらかし、この「泥沼の家」に送られてきたものばかり。いわば、MI5の「ショムニ」なのである。
元アル中のオールドミス、キャサリン・スタンディッシュ、コンピューターオタクの性格の悪い変人ローデリック・ホー、前作で大失敗をやらかしてここに送られたスパイ界のサラブレッドのカートライト。互いの傷を舐め合ううちに愛し合うようになったミン・ハーパーとルイーザ・ガイ。
 
ずらずら並べられたって、何が何だかわからないだろうが心配はご無用。
この濃いキャラたちの紹介は、本書ではシャム猫様が引き受けてくれている。
スロー・ホースにデッド・ライオン、そして猫による登場人物の紹介とはなんと洒落ているではないか。しかも、ネコにはじまりネズミに終わるときている。
 
そして、ここを牛耳っているのが、かのジャクソン・ラムなのである。
 
太っちょで、酒飲みで、ヘビースモーカーで、出前をとるため受話器を上げる以外の運動はしていない。
たいていは、天井を見上げておならをしている。
 
と散々な言われようだが実際その通り。
だが、その気になりさえすれば、俊敏に動くこともできるし、立っているだけで相手を打ち負かすこともできる。リージェンツ・パークのナンバーツーの”弱み”も握っている。
 
メンバー同士の仲は決してよくはないが、前作では見事なチームワークでオペレーションを行った。スパイは死んでもスパイ、窓際といえどもスパイなのである。
 
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本書は、冷戦時代に活躍した一人の元スパイの死からはじまる。その名は、ディック・ボウ(蝶ネクタイ)。
ソ連が崩壊した今となっては、ディック・ボウの死など気にとめるようなことではないが、ラムにとっては違った。そこに、モスクワ流のオペレーションの存在を嗅ぎ取ったのだ。そしてラムは、ディクボウが今際の際にラムに送ろうとした携帯のメッセージをみて確信する。そこには一言「蝉…」と書かれていた。
 
一方、ミンとルイーザのカップルは、リージェンツ・パークのジェームズ・ウェブから、極秘裏にある仕事を依頼される。その仕事はロシアの富豪を警護するというものだった。
ミンとルイーザの二人はその仕事こそがリージェンツ・パークへ返り咲くための「蜘蛛の糸」とばかりにすがりつくのだが・・・
 
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「敵なきあとは、身内が敵になる」冷戦終後のスパイ界をシビアに描いており、本作ではさらに進んで冷戦終了後のスパイの生き方にまで踏み込む。
 
私のお気に入りはジャクソン・ラムだが、本書は特に誰が主人公というわけではない。
ラムは端役にすぎない。キャサリンが活躍していたりもするし、ルイーザにも、リヴァーにもそれぞれ「物語」は用意されている。かといって、群像劇という感じでもない。
 
「蝉」という単語が何を意味するのか、なぜ「死んだライオン」なのかは読んでのお楽しみ。
なぜ、なぜ、なぜ、の収斂の仕方、プロットの巧みさに、きっと驚かれるだろう。
 
ゴールドダガーもさもありなん。最近でもっとも良かったスパイ小説。
訳者によると、次作は「間口の広さを感じさせる作品」なのだとか。
次も楽しみだ。
 
 

 

 

 

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