本書は「亡者のゲーム」に続く、イスラエルのスパイ「ガブリエル・アロン・シリーズ」の最新作。
「亡者のゲーム」はアマゾンの評価こそイマイチだが、個人的には大好きな作品だったので、これも楽しみにしていた。ま、所詮は他人の感想であるし、一人でも厳しい人がいればガクンと評価も下がってしまうので、あてにはならないわけだが。
主人公のカブリエル・アロンはイスラエルの諜報機関のスパイであると同時に、世界有数の美術修復家でもある。イタリアに住むユダヤ人美術修復家というのは、これ以上ない隠れ蓑なのだ。美術世界と、国際政治という二つの要素を同時期に楽しめるのも、本シリーズの特徴である。
「英国のスパイ」は、全米初登場1位を獲得したらしいがさもありなん。何しろ、物語は英国の元皇太子妃の乗ったヨットがカリブ海で爆発炎上するシーンで幕をあけるのだから。
これは誰がどう読んでも、ダイアナ妃のあの事故を思い出させる。
ただし、ダイアナ妃ご本人として登場しているのではなく同様に国民に愛されているプリンセスとして描かれているし、ヨットの爆破炎上は、エジンバラ公の事件をモデルにしたそうである。
なにはともあれ、作中でも皆に愛されたプリンセスの死に、世界中に衝撃と悲しみが広がる。爆発は事故ではなかった。プリンセスは何者かによって意図的に殺害されたのだ。
爆破の犯人として浮上したのは、アイルランド人の悪名高き爆弾魔、エイモン・クインだった。
ガブリエルは英国のMI6の長官シーモアから、クイン暗殺を懇願される。クインはガブリエルの宿敵ともいえる存在だったのだ。ガブリエルの盟友である元SASで英国人の殺し屋クリストファー・ケラーもまた、クインに深い恨みを持っていた・・・
イスラエルという国が抱えるやっかいで根深い問題に、毎回焦点が当てられるのも魅力のひとつだ。
私がこのシリーズが好きなのは、シルヴァが元ジャーナリストで、小説もまた膨大な資料や生の声にあたって分析を行って精密に物語を構築しているところにある。
もちろん、著者が断っているように、「あくまでエンターテインメント」であることは理解しているが、その背景は事実とそう変わらないところが多い。
今回メインとなるのはアイルランドと英国の争いだ。ゆえに、本書の主役はガブリエルではなく、SAS時代にIRAに潜伏していた英国人のケラー。
文字通り「英国のスパイ」の物語なのだ。
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