亡者のゲーム / ダニエル・シルヴァ

 

ハーパー文庫創設の記念出版で、ダニエル・シルヴァのガブリエル・アーロン・シリーズ最新作が登場!
これにはまってしまった。

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主人公ガブリエル・アロンはイスラエルの諜報機関の次期長官候補であり、絵画修復士でもあるガブリエルは目下、ヴェネツィアの教会で修復にとりかかっていた。

そんなときイタリア美術遺産保護部隊のフェラーリ将軍からある取引を持ちかけられる。ガブリエルの知り合いの美術商ジュリアンがコモ湖のヴェラで惨殺体の元英国外交官ブラッドショーを発見したというのだ。被害者は、盗まれた美術品の売買に関わっていた。
おそらく彼は犯人が求める”何か”を持っていたにちがいない。
将軍は、それをカラヴァッジョの祭壇画だと睨んでいた。美術班は1969年に盗まれたカラヴァッジョの「キリスト降誕」を40年以上も探していた。

この事件でジュリアンの名がでれば、美術界での彼のキャリアは終わる。そこで、彼の名をださない見返りとして、その犯人とカラヴァッジョを突止めてほしいというのだった。

殺害現場のヴェラでガブリエルは、平凡な模写の下から行方不明になっていた巨匠の名画を発見する。
しかし、そこにはカラヴァッジョはなかった。カラヴァッジョはすでに、盗難絵画を買い漁っている謎の”ミスター・ビッグ”の手に落ちたのかもしれない。この人物の正体は謎に包まれており、おそらくブラドショー殺害も彼の配下によるものと考えられた。
となれば、盗品マーケットに餌を投げ込み、”ミスター・ビッグ”を釣り上げなければならない。
かくして、ガブリエルとその仲間による” 作戦”はスタートするが…

前半は、 『FBI美術捜査官』『美術品はなぜ盗まれるのか: ターナーを取り戻した学芸員の静かな闘い』を彷彿とさせるような、煌びやかな美術品世界の物語だが、後半は一転して国際策謀ものとなる。

「本書はエンターテインメント小説である。あくまでそのつもりで読んでいただきたい」と著者は前置きをしているのだが、そこかしこに鏤められた真実やリアリティあふれる筆致についのめり込んでしまう。

本書で聖杯ともいえる重要な役割を果たしているカラヴァッジョの「キリストの降誕」は、1969年に盗まれ、今に至るまで見つかっていないのもまた事実なのだ。

あとがきで著者が述べているように、時間が経つにつれ無傷で発見される可能性は低くなり、この手の損失はいくら強調してもしきれない。
 
本書ではゴッホの超有名絵画を餌に、”ミスター・ビッグ”を吊り上げようと策略を練るのだが、その”ミスター・ビッグ”は実は思いもよらぬ大物だ。
そこからシルヴァは、現在の中東情勢の内幕といったものに切り込んでいく
どの本だったかは忘れてしまったが、「西欧にとって、今しばらくはアラブは民主主義よりも、行き過ぎない独裁者のほうがよいのかもしれない」と書いてあったのを思いだした。確かチュニスでテロがあった近辺のことだと思うが。

西欧諸国がアラブと和平を結べるのは、イスラム過激派ではなく独裁者だけだ。
しかし、その独裁者が”金”を求め過ぎる一方で、アラブ世界の人々の5分の1が一日2ドルでの生活を余儀なくされてもいるのも現実だ。

そういえば、かのロシア大統領もチラリと登場したりもする。彼もまた恐ろしい額の不正蓄財をしているのだろう。

彼をして、
「ロシア中央部の部族みたいに目が吊り上がってるが、また整形したに違いない」
というのには笑ってしまった。

プーさんのあの顔はフェイスリフトだったのか!

舞台も、ヴェネツィア、コモ湖畔、コルシカ島、リンツ、ハンブルク、エルサレムと風光明媚なところばかりで、旅しているような気分にもさせてくれるのもいい。

 

 

 

 

亡者のゲーム / ダニエル・シルヴァ」への2件のフィードバック

  • 2015-08-09 10:33 PM
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    本シリーズの解説を読むと、
    Spenthさん好みであることがよくわかるような。
    歴史が絡んで、作品背景にノンフィクションレベルのリアリティもある。
    主人公は絵画修復師でスパイ(裏の顔?)・・知性の質感に惹かれる?
    なんか上手くぜんぶ揃っている感じ。
    (絵画修復師と言えば『古書の来歴』という秀作も思い出されるし)。
    カラヴァッジョの画・・どこから光がきているのか(光源はどこ?)よくわからないフシギな画・・好きですが。
    自分も涼しくなったらこのシリーズ読みたいと思います。
    創刊本はまずハズレなし(自信作)でしょうし。
    そしてマルティンベック・シリーズもまた好きなのでした。
    『ロゼアンナ』『笑う警官』『消えた消防車』の三つが特に好きであります。
    現在の北欧ミステリの主人公警察官に見るロートル気味のもっさり感(?)は、
    マルティンベックに由来(元凶?)するのかも(失礼)。
    現在ハックと筏下りの旅の途中であります(『ハックルベリー・フィンの冒険』)。
    ではまた!
    PS繰り返し、水分補給はこまめに!

    返信
  • 2015-08-10 8:14 AM
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    naoさん、おはようございます。
    ハイ。ダニエル・シルヴァはドンピシャなエンタメですね。
    ガブリエルシリーズ、全部読みたいなぁ
    日本では4作しか刊行されていませんが…
    マルティン・ベックは、悪くはないしむしろいい作品だと思うのですが、な〜んか食指が動かない。
    今回の読書会は新訳限定なんですが、な〜んか合わなくて…
    旧訳のほうが私は好きかな。
    北欧ものの主人公が「もっさり」というのは納得です。
    物語自体もやや「もっさり」でもあるんですよね。時代的に仕方ないのでしょうけども。

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