イスラム国の正体 / 国枝昌樹

道が混んでるなぁと思ったら、昨日は横浜マラソンだった。

マラソンのようなイベントも多いが3月はまた追悼の月でもある。
東日本大震災もそうだし、オウムによる地下鉄サリン事件もまた3月に起きた悲劇だった。フジと NHKの双方でオウム特集が組まれていたが、その傷痕の深さには驚くばかりだ。
ちょうど、本書「イスラム国の正体 」を読んでいた途中だったことから、ある部分、オウムと重なった。

先日の後藤さんの処刑の顛末や、その残酷なシーンを含む動画をめぐる扱いなど、日本でも何かと話題になっているイスラム国。
国際情勢の分析会社「ユーラシア・グループ」があげた2015年度の10大リスクのうち、5位に挙げられていることからも世界での影響力が伺える。

だが、やたらと残虐でヤバい過激派であること以外は謎に包まれている組織だ。池上彰さんか誰かが既にどこかのテレビ局で解説しているのかもしれないが、それを見逃してしまった私のような者にとっては本書はとても良い解説書である。

元シリア大使の著者は、90年の湾岸危機の際日本人の人質救出に尽力した人物であるという。10年近くをアラブ諸国で過ごしたというアラブ通だ。
一番の疑問は、そもそもなぜに、イスラム国と「国」がついているのかということだ。

それは、彼ら自身が国家を名乗り領土を主張しているばかりか、そこで行政を敷いているからだという。
実際税金も徴収しているのだとか。不正が横行しているアサド政権下では何度も何度も徴収されていたので、市民からはまだマシだと受け入れられているともいう。ムスリム同胞団でも似たような話を聞く。

彼らが目指しているのは、7世紀にイスラム教の「カリフ」と呼ばれる統治者が統治していた治世なのだそうだ。
7世紀とか!
もうどんだけよ?だが大真面目である分始末が悪い。
女性の学ぶ権利はおろか人権すら望むべくもなく、奴隷制度も存在する。実際、イスラム国では奴隷の売買を行ってもいる。

首を切り落とすという残虐性もイスラム国の持つ特徴の一つだが、実はコーランでもムハンマドの言行録でもサディステックな方法で殺人を犯すことは禁止されているはずだという。
一方で、アラブ諸国では人の命を奪うということについて、それを思いとどまらせる心理的敷居が低いらしい。

命が惜しい人は絶対に近づかないほうがいい。


少し前に、どこかのカメラマンが外務省にパスポートを取り上げられ揉めていたがさもありなん。
外務省職員にしてみればたまったものではない。日本人など鴨ネギだ。容易に捕まり人質にされてしまうのだから。
さらに、彼らは非常にインターネットなどのSNSツールを上手く使って効果的に広報活動を行ってもいる。これは、これまでの過激派やテロ集団にはなかったことだ。

何よりこれまでの過激派と一線を画すのは、その資金の潤沢さだとも言われている。これは税金と誘拐ビジネスによるものが大きいという。
彼らが主張する領土はかなりな原油産出量が見込めるものの、それを精製する技術がないため実は指摘されるほどの利益は見込めないのではないかと著者は指摘する。

折しもシェール潰しのために原油価格は下落しているのだが、どれだけダメージがあったのだろう?

また、実態がよくわからないとされているのは、彼らが烏合の衆であるからだという。つまり彼らは最初から明確な理念に裏打ちされたちゃんとした組織ではなく、斜面を転がり落ちる雪だるま式にその場その場で対応しつつ大きくなった場当たり的集団であるということだ。

烏合の衆説についてもそうであるが、なぜ若者が目指すのかについても、これらはかなりな部分「オウム」と重なった。

 

 

2件のコメント

  1. SECRET: 1
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    Spenth@さん
    こんにちは。大分暖かくなってきましたね。
    イスラム国・・・困った事が次々と起こりますね。
    烏合の衆というのも困りものですね。国だった色々な制約があり、
    そう無体な事も出来ないのですが、ならず者の寄せ集めではね~。
    (まあ、[打消]中国[/打消]も、いつの時代も盗賊の頭領が全国を治めるように
    なったような国だといわれていますが)
    私のつまらない疑問でかつジョークですが、仏教徒のテロ集団て
    居ないんでしょうかね?イスラム教はもちろんキリスト教も
    いますよね(IRA以外知らないけど)
    戦国時代はいたか(比叡山、高野山の僧兵)。まあ、坊主の名を借りた
    ならず者集団だったでしょうけどね、スケール感違うけど。
    オウムは仏教じゃないと思うけど、色々梵語使っていたな。出家とか
    お布施とか・・・
    オウムといえば、日曜日にとぼけた感じのマンガで、サリンを撒くまでの
    各死刑囚の心境証言を綴ったドキュメント番組見ましたが、親とか教師に
    言わせるとみんなすごく素直な子だった、逆らったことがなかったと
    いってましたが、それが、あの麻原のばかげた教義を信じ込んでしまった事になったのでしょうか?
    オウム信者の中ですごく頭のいいやつがいて、「大学への数学」という
    超難解通信添削で、100点満点取っていたそうです。
    私は一回で止めました。難しすぎて無駄になるので(涙)。
    先のGメールで過去ログにコメントする旨書きましたが、一度書き出すと
    長くなり、御迷惑かと思い、また、もし読書会に出るようになったら、
    ネタが無くなりそうなので、都度、コメントします。
    (言ってるそばから、また、長文になってしまった、ごめんなさい)
    よろしくお願いします。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    Jiroさま
    今日は暑いくらいでしたね!
    ただ、この暖かさを信用してはいけないのでしょうねぇ…。
    > オウムといえば、日曜日にとぼけた感じのマンガで、サリンを撒くまでの
    > 各死刑囚の心境証言を綴ったドキュメント番組見ましたが、親とか教師に
    > 言わせるとみんなすごく素直な子だった、逆らったことがなかったと
    > いってましたが、それが、あの麻原のばかげた教義を信じ込んでしまった事になったのでしょうか?
    どうなのでしょうね?
    麻原は当時もそれほど賢そうには見えなかったですし、オウムに比較的高学歴の人たちが集まった理由は私にはわかりませんでした。誰だったかが指摘していましたけれども、当時はバブル真っ盛りで、世の中の雰囲気も派手で軽佻浮薄でしたから、それに背を向けたいという心理も影響したのではと言っていました。
    あの教団がまだ名前を変えて活動しているというのも、なんだか解せないなぁとつくづく思います。

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