自由は孤独?誰もが忘れる女の物語「ホープは突然現れる」

「ハリー・オーガスト、15回目の人生」の作者の最新作。
ハリーは人生を何度も生きるという特技を持っていたが、今回の主人公ホープは忘れられる女だ。

ホープは突然現れる (角川文庫)


16歳から徐々に彼女は忘れられ始める。教師も友だちも親さえも。視界から消えて20分も経てば皆彼女を忘れてしまうのだ。だからホープに会うのは誰もが常に初対面だ。
居場所を失い16歳で家をでたホープは特技(?)をいかし、泥棒で生計を立てている。そして気の向くままに世界中を旅している。
ある時、彼女は流行りのアプリの運営会社プロメテウスが主催するパーティーに紛れ込み、その主賓である王族が身につけていた有名なダイヤモンドを盗むことに成功する。
”パーフェクション”というそのアプリは、完璧な自分を目指すライフコーチ型のアプリだ。
パーティに水を差されたプロメテウスに追われる身となったホープだが、次第にアプリをめぐる陰謀に巻き込まれていく…


ちょっとあらすじだけみると荒唐無稽な感が否めないが、「ハリー・オーガスト」をはじめ、この作者の物語はだいたいがそういう感じだ。欠点がないわけではないが、最初に思ったよりも物語にのめり込めてしまう。

ひとつには主人公の苦しみのせいだろうか。誰にも記憶されないという特性をいかた気ままな生活は一見愉快で楽しそうに思える。人間関係に煩わされることのない自由きままな毎日。だが、自由と孤独は表裏一体だ。

もうひとつは、”パーフェクション”というアプリの存在だ。完璧なプロポーション、完璧なファッション、完璧な自分…
企業とタイアップしており、完璧な自分になるためのジム、美容外科、審美歯科、資格スクール、転職会社を使用し、目的を達成することでポイントが付加される。そしてそのポイントに応じ、人を「格付け」する。いうまでもなく資産がある人間のほうが「完璧」を達成しやすいし、ポイントも貯まる仕組みだ。
アメックスにはセンチュリオンがあるが、パーフェクションにはそれ以上のステージが用意されている。そこに属する人たちは「完全に完璧」なのだ。ありないほどに。

「GAFA」が利用者の個人情報を吸い上げているのは今や誰もが知っている事実だが、この小説ではその一歩先を行く。
誰もが理想の自分になりたいと願うものではあるが、その「完璧さ」とは一体何なのだろうかと考えてしまう。

訳者の方曰く、「本書はまた旅行記としても楽しめる」
世界中を旅して回る泥棒が主人公なのだからそれも当然。なので、旅行好きさんにもオススメ。
あとがきで訳者の方はなかでもスコットランドの最果てを見てみたいとおっしゃっていた。もちろんそれも素敵だけど、私は逆にありえないほど不自然な調和のドバイに行ってみたいかな…

 

  

 

 

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