無限の書 / G・ウィロー・ウィルソン

Kindle版でも2800円もするので購入に躊躇した(*゚ェ゚*)

本、高いですよね〜!

 

しかし、打ち身で足が腫れている我が身には慰めも必要なのだ。
どこでぶつけたのかは覚えていないが、こんなに痛い時でも涙がでないのは辛いなぁと思ったことは覚えている(笑)
ドライアイは辛いです。

今は痛みが下に降りてきて歩くと足首のあたりが痛む。週末でなんとか治したい。

 
それにしても、Kindleには単行本も文庫も区別はないので、Kindle版はもう少し値引きしてくれてもいいのに。
 
それはさておき、本書は一言でいうと「サイバーパンク版のアラビアンナイト」だ。
サイバーパンクといっても、よくある肉体的機械との結合的なモノではなく、思考的サイバーとでもいうべきか。
 
舞台は中東の架空の国。ペルシャ湾岸のイスラム教の戒律が厳しい世界。
主人公は、そんなイスラム圏の砂漠に囲まれた専制都市”シティ”に生きるハッカーの若者アリフである。
 
 
ところで、アリフというのはハンドルネームで、英語でいうアルファベットのAに該当する。
アリフの父親は資産家だが、母はインド人の第二夫人だ。純粋なアラブ人ですらない彼には実社会では明るい将来はないが、ハッカーとしてはネット上で高く評価されている。料金さえ払ってくれれば、誰であろうと彼のプロテクションを受けられる。
 
油田の恩恵で銀メッキのメルセデスを乗り回す王子がいる一方で、水道設備すらない地区が混在しているこの国では、あらゆるブログ、チャット、フォーラム上で不平不満や困窮の言葉が検閲されているのだ。
その規制と検閲は数年前から異様なほどに強化され、<ハンド>と呼ばれて恐れられるようになった。
 
アリフは、貴族の令嬢インティサルと隠れて付き合ってたが、彼女に突然別れを告げられる。彼女は釣り合いのとれる家柄の男との結婚が決まってしまったのだ。
失望したアリフは、彼女特有のパターンを認識するプログラムを開発する。それで自分をブロックさせれば、今後一切、彼女がネット上でアリフを探すことはできないようになるのだ。
 
そんな時、アリフは突然、<ハンド>にハッキングされる。
 
追われる身となったアリフは、幼馴染のダイナを通じてインティサルからある本を受け取る。「千一日物語ーアルフ・イェオム」と金の文字で冠されたその古い写本は、幽精(ジン)によって語られたものだったのだ。
 
そして<ハンド>は、人間が本来知るべきでない知識が隠されているという写本を狙っていた。
追っ手から逃れるため、アリフとダイナは異世界へ足を踏み入れるのだが…
 
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本書は、2013年の「世界幻想文学大賞」を受賞しているが、それには「アラブの春」が大いに関連しているのだろう。
アラブ世界に波及した現政権に対する抗議・デモ活動の発端は、ネットだったという。この物語でも、主人公のアリフはそれらの活動家たちをプロテクトするハッカーだし、アリフ自身も体制側の<ハンド>に狩られる身となるのだ。
 
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また、アラブ世界といえば、アラビアン・ナイト、ランプの精などの幽精(ジン)だが、その「人ならざるもの」は微妙にネット社会とリンクしている。
 
別次元にいるジンたちは、通常は人間には見えないという設定になっているのだが、主人公アリフもまた、アラビア語のAという記号に隠れ「見えざるもの」として活動しているというのも面白い。
原題は、「見えざるものアリフ (Arif the Unseen)」なのだそうだ。
 
ジンや彼らの世界に関していえば、ブライアン・グリーンの「隠れていた宇宙 」の多元宇宙論を思い出したりもした。三次元の世界で進化をしてきた我々は、それより高次元のものを見ることはおろか、イメージすることもできない。
物語の中で、老師様が「人の心はなんらかの形で存在するものしか想像することはできない」と言っているがまさにそれだ。我々が見ることのできない次元に神もジンたちも生きているのかもしれない。
 
アラビアン・ナイト的な素敵さあり、多元宇宙的な広がりもあり、政治観、宗教観も織り交ざっている物語。
善悪がはっきりしているエンタメでありながら、思うほどそう単純でもない。なかなかイケてる小説。
 
 
 
 

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