フィクション

神の水 / パオロ・バチガルピ

2015-12-09

やっぱり、バチガルピはすごい。
『ねじまき少女』 では石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコクを描いたが、今回は水資源が枯渇したアメリカ南西部が舞台だ。
そしてこれまで読んだバチガルピ作品中、最も残虐で暴力的でダークな仕上がりになっている。

 

コロラド川流域の各州は、水資源をめぐる対立から州境を閉ざし一挙即発の状況になっている。人々は水を求めて北へ向かおうとし、州境では越境斡旋業者のコヨーテが暗躍している。

かつてのコロラド川は自由に勢いよく流れていたが、もはやメキシコ国境までは一滴の水も流れない。このコロラド川を牛耳っているのが、”コロラド川の女王”こと南ネバダ水資源公社のキャサリン・ケースだ。人々は彼女を殺し屋と呼ぶ。彼女の手下の水工作員(ウォーターナイフ)が、違法採水に過酷な取り締まりを行うからだ。

今や、富裕層の住まう環境完全都市(アーコロジー)の外には、死と砂漠しかない。
ケースのウォーターナイフのアンヘルは、彼女の命で水を止められた瀕死の街、フェニックスに赴く。そこで何かが起ころうろしている。

同じ頃、フェニックスのジャーナリストのルーシーは、友人ジェイミーの惨殺体を発見する。水役人のジェイミーは、ルーシーにコロラド川協定を覆す水利権を見つけたと話していた。ジェイミーが見つけたものとは何だったのか。

一方、テキサス難民のマリアは、必要に迫られ水採掘会社の重役に身体を売ろうとしていた。

ウォーターナイフのアンヘル、ジャーナリストのルーシー、テキサス難民のマリアは、水利権をめぐる争いに飲み込まれていく。

Colorado_River1.jpg

中国人が日本の山林を買いあさっているというのを耳にしたのは、数年前だっただろうか。その目的は水資源だという。人口爆発や地球環境の変化を勘案すれば、やがて深刻な水不足がやってくることが中国人にはわかっているのだ。

あとがきで著者は、「ここで描いた悲惨な未来は、何人もの科学および環境ジャーナリストたちの献身的な研究結果に基づいている」と言ってもいる。

本書で繰り広げられる悪夢は、来るべき未来の姿であり、本書は「警告の書」でもある。ちなみに、本書に日本の存在感はない。かすかにヨコハマカッターという道具の名称にみられるのみ・・・。

本当にひどい状況になってしまったとき、人々はどうするのだろう?
作中で、ウォーターナイフのアンヘルはこんなことを言っている。

ひどい状況がはじまったときは、人は最初は協力しあうだろう。しかし本当にひどい状況になったら、もうそんなことはしない

人は性善説を信じたがるが、歴史やルワンダで起こった出来事などをみるかぎりは、アンヘルの言葉に反論することはできない。
ここに描かれていることは、悲しくどうしようもない人間の真実かもしれない。が、唯一の救いはウォーターナイフのなかにみられたある種の誠実さだろうか。

ところで、アメリカの水利権は、その利権の古い方から優先されるのだそうだ。州境を閉ざし各州が一発即発の混沌の状態にあってさえ、その「ルール」が厳格に守られようとすることもまた面白い。

 

 

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