ブルーモスク、グランドバザール、ドルマバフチェ宮殿に地下宮殿、トプカピ宮殿、ガラタ橋、そしてボスフォラス海峡・・・トルコに行きたい!
次は絶対行こうと思っていた矢先に、あのテロ騒ぎだ。安全なはずの国際空港はテロの標的になり、挙句クーデターまでもが起きてしまった。もう安心という人もいるが、何があっても全て自己責任の世界。
行きたいのは山々だけど、諸事情で行けない。という私のような人にぴったりなのが、本書「旋舞の千年都市」である。
なにしろ「イスタンブールを読む」とも評されるくらいである。
しかも、キャンベル記念賞、英国SF協会賞をダブル受賞している。
舞台は至近未来2027年のイスタンブール。物語は、主だった登場人物6名の群像劇の形をとって語られる。
青年ネジュテッドは、トラムの中で自爆テロに居合わせ、それ以降見えるはずのない”ジン”が見えるようになる。(本文中には説明はないが、ジンとはアラブ世界における精霊や魔人などの超自然的存在の総称らしい。)
珍しい心臓疾患のため耳栓を常用し静寂の世界に生きている9歳の少年ジャンは、”ボット”(形態を変えられるドローンのようなもの)を使い、探偵ごっこをしていたが、何者かがネジュテッドを観察していることに気づく。
ジャンはそれを隣人の老ギリシャ人で元経済学者のゲオルギオスに話すが、危険に首を突っ込まないよう言い含められる。
他方、ゲルギオスは、47年も前の恋人が帰郷すると聞き動揺を隠せない。また政府のシンクタンクに招かれたことで、自分を葬り去った仇敵に一矢報いる機会にも恵まれる。
レイラは、「生物的ナノテクノロジー」を売り込もうとしていた。これは人間のジャンクDNAをメモリのスペースとして使用するというものだ。この技術によって今までに書かれた音楽は全て虫垂に、世界の全ての図書館の本を小腸のうちの数ミリに収めることができる。
オゼル物産ガス社のトレーダー、アドナンは、危険性があるため打ち捨てられているイランのタダ同然のガスを、高価なカスピ海産のガスにすり替える「ターコイズ計画」を進めていた。
一方、宗教美術を専門にした画廊を経営しているアドナンの妻アイシェは、さる男から莫大な報酬と引き換えに「蜜人」を探して欲しいという依頼を受ける。
「蜜人」とはイスタンブールの伝説のミイラで、アヤ・ソフィアの失われた宝石に比肩する宝物だった。一旦は依頼を断ったアイシェだが、抗いがたい魅力に負け「蜜人」探しを始めるのだが・・・
雑多でバラバラな6人の物語が繰り広げられるのは、これまた雑多でキッチュなものがあふれかえっているイスランブール。
未来的ガジェットと古いものの対比と組み合わせが面白い。
例えば人々が来ているナノ素材の服は、気温の変化に応じ繊維の束が大きくなったり小さくなったりし、その模様もめまぐるしく変わる。また少年探偵のジャンのおもちゃの”ボット”は自在に姿を変えることさえできる。かと思えば、ジンや蜜人も重要な役割を果たす。特に「蜜人」のエピソードには惹かれるものがあった。
今年2016年、英国がEU脱退か残存かを問う国民投票の末に脱退することが決まったが、作中では、2022年にトルコがEUに加盟し、これによって少なからぬ不協和音が生じているという設定だ。
2022年まであとわずか6年。
実際にはEU加盟は難しい気もするが、この数十年のうちに私たちは何を見るようになるのだろうか。
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