ファンタジー要素が強いのに、現実的な地球温暖化問題がテーマの不思議にチャーミングで味わいある作品。
ちなみに、ネビュラ賞、ローカス・ファンタジー部門長編賞、クロフォード賞の3冠に輝いている。クロフォード賞、知らなかったけどファンタジーの歴史ある賞らしい。
装丁もカラフルでポップだが小説の中身もこんな感じ。同時に意義深くもあるが。著者自身もカラフルでいらっしゃる(笑)
主人公は動物の言葉がわかる魔法使いの少女パトリシアと、”二秒タイムマシン”を作ったことでMITの科学者に才能を認められた少年ロレンス。
周囲から浮いていて孤立していた二人は中学校で出会い友達になる。魔法と科学、正反対の志向の二人だが、二人とも家族とも相容れず、気を許せるのはお互いだけだった。
ところが、将来二人が世界を破滅させるという啓示を受けた暗殺者によって、仲を引き裂かれてしまう。
10年後、成長したパトリシアは自然に害悪を及ぼす人を魔法で懲らしめる秘密組織に属し、一方のロレンスは環境破壊で荒廃した地球を捨て新たにハビタブルな惑星に人間を移住させるプロジェクトの科学者になっていた・・・
誰にも理解されない二人が友情を育む前半部分は、ややジュブナイル的。でもそれだからこそ繊細で心に響く。
後半部分は、より温暖化が進み旱魃や大災害が頻発するようになり、それに伴う「対立」がテーマとなる。この小説の場合は、地球を守るのか捨てるのかだ。
実業家が主導するロレンスのプロジェクトでは、移住候補の惑星までの移動にワームホールを開けることが必須なのだが、それによって生じる反重力で地球は粉砕される可能性もある。
地球を見限ることで世界=人類を救うか、人類も他の多くの動植物同様に地球の一部として考えるべきか・・・
二人ともそれぞれの組織の主張に同意しているわけではないが、二人の間の相違はとても興味深く考えさせられる。
例えば、道徳について。ロレンスは道徳は最大多数の最大幸福という”原則”から導かれるべきだと考えるが、パトリシアは一番は自分の行動が他人に与える影響を意識することだという。
もちろんどちらも間違いじゃない。
それに考え方が違っても、友情も愛情も育むことはできる。
環境問題しかり、人権問題しかり、政治問題しかり、コロナ禍の今においては経済か感染拡大防止かで、何かと「対立」ばかりがクローズアップされるが、二元論では何も解決しない。
この物語で重要な役割を果たすのは、子供の頃ロレンスが産み出し、パトリシアが対話をすることによって育てたAIのペレグレン。
ページを開いてすぐにあるのは、「バイダルカ」のジョージ・ダイソンの含蓄ある言葉だ。
「生命と進化のゲームでは、人間、自然、機械がプレーしている。私は自然の味方だが、どうやら自然は機械の味方らしい」というものだが、改めてこの小説を象徴している。
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