ハヤカワ文庫「冒険スパイ小説フェア」記念に開催された手嶋龍一氏×佐藤優氏の豪華トークライブにいってきた!
日本でインテリジェンスの世界を語ってもらうには、これ以上ないお二人。
会場は写真NG。女性作家のなかには時々「ええ?」な方もいらっしゃるが、手嶋さんは時折テレビでみるとおり。淡いグレーブルーのスーツがよくお似合だった。
佐藤さんは知的で物静かな雰囲気。
手嶋さん曰く「佐藤さんのその大きな目をみていると、夜眠れなくなります」とおっしゃっていたが、確かにそんな感じではあった(笑)
お二人には、急転直下のごとく実現したシンガポールの米朝首脳会談をどう紐解くのかについての”濃いお話”をしていただいた。
ニュースでなんとなく知ったつもりにはなっていたけど、これが驚くことばかり。というか、もしかしなくても私は世界で本当に起きていることも本当の歴史も何も知らないのではないか。
実際、そうなんだろうなぁ。
米朝会談の読み解きに関しては、「第三者に話すときは全て自己責任でお願いします。」というシロモノ。殊に日本にとっては、例の拉致問題も絡んでくる複雑なものだった。
これがこの日最大のテーマだったが、設明する自身がないので割愛(苦笑)
米朝会談など日本には関係ないと思っていたが、日本と国連軍の交わしている国連地位協定や、日米安保協定にとっては大いに影響を及ぼす。国連地位協定なんてその存在すら知らなかったけど・・・
日本のジャーナリズムの関心は、福田元事務次官、米山新潟県知事、TOKIOの山口くんなどにあり、特に元ジャーナリストの手嶋さんは日本のジャーナリズムの質の低下を嘆いておられた。
強烈なキャラで一見行き当たりばったりに見えがちなトランプ大統領については、「かなりしたたか」だという評価。
トランプ外交の最大の特徴は、「重要なことを消して自分から言わない」ことだそうだ。
この度の米朝会談も、一旦実現しそうにみえたところをひっくり返し、北朝鮮側からの提案という形にもっていっている。これは、トランプが政府内反対派を抱えていることによるものだ。身内を抑制ための手段といえる。
しかも米朝会談の内容は非常に曖昧模糊としたもので、北朝鮮の非核化についての意思と安全保障への格言はなされたものの、核廃棄の期限もプロセスも検証も何ひとつ具体的に言及されていない。
インテリジェンスの世界において、「あまりに重要なことは記録として残さない」というのは常識中の常識だそうで、日本でも、かの千利休が秀吉に切腹を命じたという文献はないという。
しかし記録がないからといってその事実がなかったという証左にはならない。手嶋さん曰く、そう考えるのはインテリジェンスの素人です。おそらくは茶室で、切腹のせの字すら口にすることもなくほのめかされた程度だっただろうと推測しておられた。
英国スパイ至上最大のスキャンダルともいえる、キム・フィルビーについても同様。実際の話、キム・フィルビー事件の顛末の公式記録は残っていないのだという。
しかし、重要すぎて記録に残せないものは、後々「物語という形」をとって世の中に出てくることが多い。
キム・フィルビー事件に関してのフィクションは多く作られた。が、風雪に耐え現在まで残っているのは、ジョン・ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」と、グレアム・グリーンの「ヒューマン・ファクター」だろう。
そして、ル・カレとグリーンは揃いも揃ってMI6の元インテリジェント・オフィサーだ。これは決して偶然などではないという。
佐藤さん曰く「スパイが引退することはあり得ない」という。彼らは現役のMI6のアセットであり、彼らの物語は「非公式の記録」なのだという。
確かに手嶋さんのデビュー作でもある「ウルトラ・ダラー」の”初版の帯”には、「これを小説だと言っているのは著者だけだ!」ともあった(笑)
そして、このタイミングでル・カレの自伝に続き、「ジョン・ル・カレ伝 」が上梓されるのは偶然はなく、なんらかのアピールの意思があるからだろうという。
素人からすればなんだか陰謀めきて聞こえるが、事実は小説よりも奇なりなのか・・・
ル・カレに関して言えば、手嶋さんが最も優れていると思うのは「寒い国から帰ってきたスパイ」で、これにはインテリジェンス小説の全てが詰まっているという。
「ジョン・ル・カレ伝 」の上梓とともに、海外でも本書と並べて平積みしている書店も多いのだそうだ。
これは是非、前者を再読したうえで「ジョン・ル・カレ伝 」を読みたい。
最後に、優れたスパイ小説と優れたミステリーは似ているとおっしゃっていた。
それはどちらも「人間の心理をどう操るか」が描かれているからだ。
他にも有意義なお話をたくさんしていただきました。
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