御年81歳!フォーサイスの新作「ザ・フォックス」

ついこの間、自伝「アウトサイダー 陰謀の中の人生」を上梓したフォーサイス。
「ジャッカルの日」で一躍人気作家となり、国際陰謀サスペンスの第一線で活躍してきたが、この自伝を機にいよいよ筆を置くのかなぁと思っていたら、
あら、新作!

ザ・フォックス

あまり評価はよろしくないようだが、私には面白かった。

というか、最近気づいたのだけど、どうも私は英国陰湿ジメジメ系よりも、フォーサイスみたいな冒険系大衆向けの方が好きみたい。

人生も折り返しを過ぎると、人間やはり苦悩よりも愉楽だ。

楽な方に逃げるともいうが(笑)、今話題のあのワニさんのように日々を平々凡々に生きることこそ大切だと思うようになった。
一緒にお酒を飲みたいのも、ル・カレより断然フォーサイス。
いや前者も決して嫌いではないけど、コロナ疲れの今は特にフォーサイスの分かりやすさと理想主義はありがたい。

さて、現代では情報を制するものが世界を制する。
ということで、テーマはハッキングだ。
ある時、世界で最も堅牢なはずのアメリカ国家安全保障局のシステムに何者かが侵入する。にもかかわらず盗まれた情報はなし。
ごくごく微かな手がかりをもとに発見した犯人は、英国の田舎に暮らすアスペルガーの少年だった。

ハッキングは米国では重罪だ。怒り心頭のアメリカ側は即時に少年の引き渡しを求める。引き渡たせば、少年はアリゾナの地下刑務所に一生閉じ込められる。自閉症の少年は精神崩壊してしまうだろう。
英国首相の安全保障顧問サー・エイドリアン・ウェストンは、それを回避すべく、米国大統領に取引を持ちかける。
いわく、閉じ込めるより使え。かくして「トロイ作戦」は開始される。
少年のスキルを生かし、英米両国にとって問題となる敵対国に、サイバー戦を仕掛けるのだ。
少年は、英国政府に厳重に匿われ「フォックス」というコードネームを与えられる・・・

ニュースを目にする者なら誰しもが記憶しているあの出来事やあの事故の裏に、もしも「フォックス」が関与していたら・・・的な楽しみどっさり。この「フォックス」には実在のモデルもいるのだという。

いささか、散見的ではあるが、ロシアの内情や、また近頃飛翔体なるものを打ち上げ始めた北朝鮮の動きの裏を探るのは興味深い。
私たちも「将軍さま、また池ポチャじゃん」などと笑っている場合ではないのだ。

小説としてのまとまりはイマイチで、ディテールに深みがないのも重々承知。というのも英米両国には、ロシア、イラン、北朝鮮と敵が多い。
それらを全て盛り込むのだから、まとまりがなくなるのも掘り下げができないのも仕方ない。
もしも、ロシアだけに絞って描いたならば、往年のファンの心は掴めたのかもしれない。

ただ、このサービス精神こそがフォーサイスの良さでもあると思う。
彼には、「こんなことも分からないのなら読まんでよろしい!」というような拒絶がない。たとえこちらが無知であっても、丁寧に解説してくれているし、上流階級特有のほのめかしのような曖昧さとも無縁だ。

ところで、本書のタイトルは「フォックス」だが、主人公は終始一貫してウェストンだ。
冷戦時代のスパイマスターである彼はあの「騙し屋」のサム・マクレディの後輩にあたるらしい。
その手口はマクレディを彷彿とさせるし、隙あらば自分が若かりし冷戦時代のエピソードを重ねてくるところは著者ご自身にも似ている(笑)

色々欠点もあるものの、ページターナーであることは間違いない。
読みやすさも相まって一気読みできマス。

 

  

 

 

 

 

 

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