世界最強の女帝 メルケルの謎 / 佐藤伸行

一時期、「リケジョ」という言葉が流行ったが、その「リケジョ」の代表的存在だったのはオボちゃんこと小保方さん。
オボちゃんの手記、『あの日』を読んだかたが、彼女をこう評していた。
「小保方さんという人は、人の懐にするっと入っていける才能があるのかもしれない」
聞くところによると、彼女は実力で東京女子医大で研修をしたり、ハーバードに留学したのではなく、たまたま飲み会の席でそこの教授に気に入られ、「じゃあ君、ウチに来る?」ということだったらしい。

それをリアル・リケジョの友人に話すと、「あ〜、私もそういうところが多分ある〜〜!」という。彼女は自分で努力を積み重ね今のキャリアに立っているだと思うが。

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さて「世界最強の女帝」と評されるドイツの現首相アンゲラ・メルケルもまたリケジョなのでである。
元物理学者の彼女は、東日本大震災時の福島原発の事故を受けると素早く脱原発に舵をとったのは周知の通り。

一昨年だったかドイツ旅行をした時に驚いたのは、風力発電、太陽光発電の設備の多さだった。風光明媚な中世風の村の家の屋根にもソーラーパネルが設置されていたほどだ。あれには少々興ざめだったが(笑)
元物理学者という門外漢で、政界デビューも遅かったメルケルは、コール元首相に引き立てられたおかげで、彗星のごとくドイツ政界に登場した。

メルケルは、「コールの女の子」と呼ばれていたという。オボちゃん的才能も多分にあったのだろう。
野暮ったく垢抜けなかった彼女だが、ドイツ統一後、東ドイツの出身で且つ女性政治家を探していたコールにとって、うってつけだったとも言われる。だが、その後のメルケルはコール元首相を踏み台にする形でのし上がっていった。

ぱっと見、もっさりしたオバさんのメルケルは、ロシアのプーチンと通訳なしでロシア語で会談ができるほどの語学の才と、「象ような(巨大な)の記憶力」を持っているのだという。
よく人は見た目の印象が9割ともいうが、逆に男性は「もっさりした女性」には警戒しない。

メルケルが、かつてのブッシュ政権のコンドリーザ・ライスのようにファッショナブルで洗練された、見るからに切れ者であったなら逆に今の地位はないのかもしれないとも思ってしまう。
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また、メルケルはドイツそのものを体現する存在でもある。倹約、質素、勤勉、真面目をよしとし、洗練されていない。これらはドイツ人が描く自画像そのものだともいわれている。

そんなドイツの国民性がイタリア、フランスに相容れないように、メルケル自身もまたベルルスコーニや、サルコジ(のちにはサルコジは配下に置かれた)と互いに相容れなかった。女たらしのベルルスコーニとも、モデルを妻に持つサルコジとも、マッチョなプーチンとも相性が悪いのは納得ではあるが。

そんな彼女は、ドイツ国内では「母」というイメージで捉えられているが、政敵を追い落としていった手法はまさにマキャベリ的だ。
そのことから「メキャベリ」という言葉もあるほどだという。見た目からは想像もできぬほど怜悧で切れる人物でもある。
先のギリシャ危機では容赦ない緊縮策を求めその剛腕ぶりを発揮し、そのギリシャ危機において、ドイツがフランスに変わって欧州のリーダーになったことを全世界に印象づけた。

少し前に、フランスの人類学者エマニュエル・トッドの「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告)を読んだ時は、フランス人のヒステリーくらいにしか思わなかったのだが、本書でその歴史の裏側を丹念に読むと、その喚きにも納得ができるというものだ。しかし、この本には個人的にはあまりにも感情論に走りすぎ、私には説得力がなかった。それに、日本への警告というほどの中身もなかったような…

話は逸れたが、人というものは人が思うより複雑なものでもあり、同時に単純でもあるものだ。人は多かれすくなかれ多面的な存在である。
メルケルという人は、ロボットのように冷徹な合理主義者であるかと思いきや、先の「シリア難民受け入れ」を決断したりする面もある。今ではサッチャーに代わる「新・鉄の女」と評される彼女だが、時折差し迫った場面では、涙をみせることもある。

外見はもっさりした印象のメルケルだが、実は二度も結婚している。メルケルという姓は、最初の夫のものだ。そして二度目の夫である現在の夫も単なるお飾り夫ではない。物理学の世界では最高峰の学者であり、しかも略奪婚だったというのだから、わからないものではないか。

メルケルという人の謎云々よりも有益だったのは、日本人の誤解についてである。
日独伊同盟で第二次世界大戦を戦い、互いに真面目で勤勉な国民性から、日本人はドイツ人は親日だという認識を持っているが、それは大いなる間違だという。
ユーロ安の恩恵を受け輸出業に邁進するドイツにとって、中国の巨大市場はこれ以上ないほどの魅力がある。ドイツにとって日本と中国では、中国のほうがはるかに重要なのだ。もはや、「今度はイタリア抜きでやろう!」などというジョークも言ってはもらえそうにない。

日本ではあまり報じられないが、歴代のドイツ首相は日本には数回しか足を運んでいないのに、足繁く訪中を重ねている。もちろん中国は中国で、思惑がある。戦後の償いをしたドイツを賞賛することで、日本バッシングをするという歴史的宣伝に利用するのだ。
ドイツと中国の蜜月は、日本にとっては不愉快ではすませられない圧力だが、さりとて、日本が反独感情を持つことは許されない。
日本にもそろそろメルケルみたいな人がでてくることを願うのみだろうか。

 

 

 

 

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