フィクション

紙の動物園 / ケン・リュウ

2015-09-03

ようやく重い腰をあげて『紙の動物園』 を読んだ。
金曜はもう読書会だというのに、今朝までテニスをチラ見しつつのダニエル・シルヴァ祭りだったから。

なんでもあの又吉直樹氏がTVで推薦した話題作であり、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞受賞の三冠に輝いたともいう。(表題作)

そういえば、春のコンベンションでも北上次郎氏が熱く推薦していた。
話半分に聞いていたのだが、それは大きな間違いでした。ごめんなさい。

 

ただし、15篇もの物語があるので、読書会をやるのはちょっと難しそう。
短編集は、過去一回だけ『招かれざる客たちのビュッフェ』 でやった記憶があるが、人気投票で終わってしまったような…

ちなみに、本書に収録されているのは下記の15篇の物語だ。

・紙の動物園
・もののあはれ
・月へ
・結縄
・太平洋横断トンネル小史
・潮汐
・宇宙選抜種族の本づくり習性
・心智五行
・どこかまったく別な場所でトナカイの大群が
・円弧
・波
・1ビットのエラー
・愛のアルゴリズム
・文字占い師
・良い狩りを

最先端科学を突き詰めていけばいくほど哲学的な問題になるが、それを顕示しているかのような短編集だ。

同じ中国系アメリカ人のSF作家テッド・チャンの作風にも似ているが、チャンほど重くはない。
私はケン・リュウのほうがポップな分、読みやすかった。
あとがきにもあるのだが、アメリカで生まれ育ったテッド・チャンに比べて、物心ついてから移住したケン・リュウの作品は、より中国的でもある。見た目も中国っぽいというかチベットっぽいというか。

中国各地の古い物語を編んだ説話集に「聊斎志異」というのがあるのだが、それらに少し雰囲気が似ている。
一番最後に収めてある「良い狩りを」などはその最たるものである。そういわれてみれば、「聊斎志異」はかなりSF的だ。

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ちなみに、この表題作「紙の動物園」は、Kindleのサンプル版だけで読むことができる
「紙の動物園」は、母親の息子への愛情にホロリとさせられる作品なのだが、これが当時の中国の背景とあいまってどうにも切ない。
今や中国人のイメージも変わり、”銀座にバスで大挙してやってきて爆買い三昧”だが、この物語にでてくる主人公”ぼく”の母親はひと世代前の世代だ。
なにしろ、“ぼく”の母親は、アメリカ人の父親にカタログで選ばれたのだ。
日本でも同様にひと頃、嫁のなり手がない地方の農村で中国人花嫁を受け入れていたが。
そんな母を短絡的に軽蔑し距離をつくる”ぼく”と、ずっと息子を想い続ける母親。私自身も母とあまり相性がよくないので、なんだか身につまされるが、世に無償の愛というのが存在するとしたら、それは母親の愛情なのだろう。

「もののあはれ」も好きだし、「結縄」も面白いと思ったが、ほかに印象に残ったのは、「円弧 アーク」だった。
SFで非常に好まれる”不老不死”をテーマにしているのだが、オチがお決まりの空虚さではないところがよい。具体的にどういうところがいいのかは、読んでのお楽しみということで。

私自身は、もしかして現実にも人類は死を克服してしまうのではないかと思っている。ジョナサン・ワイナーのようなキテレツ科学者のいう『寿命1000年』も絵空事ではないと思う。

しかし、そういう選択肢ができたとき、自分はどうするのだろうか。もう人生の折り返し地点を過ぎ、老いを日々意識するようになったせいか、その手のことをよく考える。
肉体のリペアはできても精神のリペアはできないというが、どうなのだろうか?
どこからどこまでが、自分で、どこからどこまでが自分ではなくなるのか?

インタビューでは、ケン・リュウは、生きているうちに目にしたいSF的イノベーションの第1位に”不死”を挙げている。

曰く、
「生はあまりにも貴重な贈り物で、それが終わらねばならないのはただ残念でしかない」
といいつつも、面白いことに物語ではそう言ってはいない。

 

 

 

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