読み応えあり!クリムゾン・リバーの著者の長編「通過者」

映画にもなった「クリムゾン・リバー」の著者ジャン=クリストフ・グランジェによるフレンチサスペンス。
アマゾンの紹介文には「フランスのスティーヴン・キングと評される」とあるが、キングという感じではないかな。連続して起こる猟奇的殺人やその起因を科学や政治性に求めるところなどはフランク・ティリエと同じ系統。(フランク・ティリエかなり面白いのに、もう日本刊行ないのかな・・・)


通過者 (BLOOM COLLECTION)

読み始めは、登場人物がみな精神を病んでいることに嫌気がさす。
ボルドーの精神病院に勤める主人公の精神科医マティアス・フレールの日常と、患者たちの描写はかなり気が滅入る。
だが、ここでやめてはいけないのです。

そんなマティアスの元に、記憶喪失の男”カウボーイ”が回されてくる。彼には自分にまつわる記憶が一切なかった。
マティアスが彼に下した診断は「解離性遁走(フーグ)」。精神科医が「荷物を持たない旅行者」と呼ぶものだ。強いストレスが原因で記憶を失い、しばらくして記憶を取り戻したと思っても、実際は新しい人格を創って過去まで塗り替えてしまうという無意識の自己逃避。
”カウボーイ”が目撃したと思しき事件の被害者は、闘牛の頭部を頭にかぶせられているという猟奇的なものだった。

現場の指揮をとるのは若きアナシス・シャトレ警部。
ボルドーの上流の生まれのお嬢様だが、22歳のときの出来事が契機となり高名なワイン醸造家の父親と決別し、ノイローゼ気味で向精神薬が欠かせない。

二人はお互い惹かれあいつつ、それぞれの立場から事件にアプローチするが、やがてマティアスの事件への関与が濃厚に・・・

「通過者 Le Passenger」というタイトルにみられるように「解離性フーグ」という珍しい症状がこの物語の核心だ。
そういえば、「ボーン・アイデンティティ」もこの症例からヒントを得た作品なのだそうだ。自らの正体をつきとめるべく奔走し警察機関に追われるボーンさながらのスリルとサウペンスも味わえる。だが、本書の場合事態はもっと複雑だ。
そして、もちろんこれだけでは終わらない。

結構な大風呂敷を広げてあるので、所々「ツメが甘い」という人もいるだろう。
でも、そこはフレンチ。仕方ないと割り切ろう(笑)
個人的にはこの種の問題は早々単純なものでもないと思うし、詳細を詰めていくとしたら倍のページは必要になるだろうからこれはこれで良いと思う。
それでも十分に読ませる内容にもなっている。

他に特筆すべきはこのアナイスが、メンヘラビッチであることか(笑)
かなりトゲトゲしいことも多くて、よくもまあ部下がついてくるなぁと思うが、この部下も強者揃い。老齢の伯爵夫人のヒモになっていて高級品で身だしなみバッチリな刑事もいたりする。彼を主人公にしたスピンオフなんかもあれば面白いかも。

イエローベストの暴徒化に揺れているフランスは、固定化された階級社会である反面、共和主義的左寄り的な側面もある。アートや宗教が果たす社会的役割等々も含め、随所にフランスらしさが感じられるところも本書の魅力。

惜しむらくは、少々お値段高めなことか。紙の本で3000円超え、Kindle版でも2400円する。
私の場合、娯楽小説は2000円が抵抗帯価格になっているため少し悩んだ。でも、それに値するボリュームも読み応えもある。さして面白くもない文庫に1000円出すよりは余程お得感があったかな。というより、文庫でも上下巻なら最近は軽くこれ以上はするしなぁと思い直した。

 

  

 

 

 

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