黒川博行ファンにはお馴染みの、堀やん(堀口)と誠やん(伊達)の元大阪府警マル暴担のクライムシリーズ。「悪果」にはじまり「果鋭」、「泥濘」ときて、もう4作目になる。
悪徳警官の二人は監察に目をつけられ、堀口はヤクザに刺された挙句の依願退職、伊達は愛人のヒモに襲われて懲戒解雇。
その後、伊達は競売屋に就職?し、フリーの堀口とバディを組んでシノギに爆進・・・
さて、今回の二人のシノギは「5億円相当の金塊」だ。
金塊が絡む事件で思い出すのは数年前、福岡で起きた事件だろう。博多駅近くで会社役員が警官を装った男に声をかけられた隙に、7億円相当の金塊の入ったアタッシュケースを強奪された。
そもそもこの金塊は、「消費税詐欺」に目をつけたヤクザのシノギ。
金は日本を除く多くの国では非課税だが、国内に持ち込む際は税関に消費税の納付が必要になる。国内では他の商品同様、金のグローバル価格に消費税を上乗せした金額で取引される。
密輸した金を国内で売却すれば、その消費税分(当時は8%)がまるまる儲かるというわけだ。
税関の検査が緩い福岡で金の密輸は横行していたらしい。
この事件の主犯とされる犯人は捕まったものの、解明には至らず様々な謎は残されたままだ。
この事件を丹念に調査し、我らが堀やん誠やんのクライムサスペンスに仕立てられたのが本作品。
もうこれが面白くないわけがないじゃないですか!
堀口と伊達の二人組は相変わらずヤクザよりヤクザらしく(苦笑)、5億の金塊目指してイケイケ。
当然その行く手には、本物のヤクザも暴対法に縛られない半グレも立ち塞がる。
今回の二人は手がかりを追い大阪を飛び出す。淡路島にはじまり、由布院、小倉、博多、名古屋を走り回るのだから、ちょっとしたロードムービー風でもある。
そもそも二人の掛け合い漫才のような大阪弁も楽しいのだが、それに加え小倉などの方言でご当地感も味わえた。
おまけに、この二人はグルメなのだ。誠やん(伊達)の「飯、食お!」があると、食いしん坊としてはわくわくする。
まあ、作者も食べることが大好きなんでしょうね。
がしかし、彼らのシノギには代償が付き物。そもそもがヤクザの米櫃に手を突っ込もうとするのだから危険この上ない。
近い将来の結末が透けて見えてしまうのが悲しい。彼ら自身もワルだが、そのシノギを争う相手はヤクザや反グレで、もう二人とも盾となる桜の代紋はない。
シリーズが進むごとにボロボロになっていく。
痛快で面白いがやがて悲しき、なのだ。
二人とも悪徳ではあったが刑事としては優秀だった。今のシノギ探しは金のためなのは否定できないが事件を追いかけるのが好きな、根っからの刑事というのが滲み出ているのも切ない。
思えば、「疫病神シリーズ」を含め、黒川作品はどれもそうだが、愛すべきワルであってもワルは決して幸福にはならない。そのあたりは割とケジメがある感じ。
物語のトーンは全く異なるが、D・ウィンズロウの「ダ・フォース」のデニー・マローンも憎めないいい人な悪徳警官だったな・・・
この二人の「果実」は常に、悪かったり、鋭かったり、時にぬかるみに足をとられたり、熔けたり・・・
二人の行末を暗示しているかのようで、そこも切ない。
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