風の丘 / カルミネ・アバーテ

ファシズム政権が吹き荒らる時代の南部カラブリアの田舎が舞台の作品。
歴史大河小説といったところだろうか。イタリアの権威ある文学賞カンピエッロ賞を受賞している。 「嵐が丘読んでるの?!」と聞いてきた妹よ。装丁も雰囲気も違うだろ。

リアリスティックで素直、訳の良さも手伝って非常に読みやすい。自然が美しい故郷や家族の物語、秘密というのも日本人好みなのではないか。

物語は語り手である”僕”が父の暮すイタリア最南端のロッサルコの丘に戻ってくるところから始まる。
80歳を前に父ミケランジェロは村から離れたロッサルコの丘に引っ越そうとしていた。 村の者たちは気でもふれたのかと噂したが、父にとっての我が家はロッサルコの丘に他ならなかったのだ。
この丘で生を受けたミケランジェロはここで自分の人生の幕引きをしようとしていた。そして、これを機に”僕”に家族の物語を語ろうとしていた。

良きにつけ悪しきにつけ、このロッサルコの丘と深く結びついた一族の物語を。それは必ずしも良い話ばかりではない。父は話をはじめるにあたって、何らかの告白をほのめかしその秘密の共有を求めていた。自分が死に家族の物語が消えてしまう前に。

曾祖父アルベルトのこと、息子たちを次々と奪い去った戦争のこと、アルクーリ家でもとりわけ頑固で、反骨精神旺盛だった父の父、祖父アルトゥーロのこと。
横暴な大地主の嫌がらせにもファシズムの嵐にも屈しなかったこと。

そして、突然始まった丘の発掘調査とそこに埋められている秘密のことを・・・。


恵みをもたらしてくれる丘の美しい描写が良い。
そもそもロッサルコの丘は決して元来肥沃というわけではない。風が吹きすさぶオリーブの古木があるのみの岩だらけの荒れた土地だが、それをアルクーリ家の男だちが手を入れて根気強く飼いならしてきた。
海から吹いてくる風が、エニシダや庭常の花、オレガノや甘草と入り交じって香る様子は今にも漂ってきそうだ。
春に咲き乱れる赤いスッラの絨毯。その上で生を受け丘に再び還ろうとしている父ミケランジェロの語る清高な物語に魅せられる。

土地と深く結びついた生活というのは、我々農耕民族のDNAを刺激するのかもしれない。高尚さすら感じてしまう。

この土地と家族の結びつきは世代を追うごとに希薄になっていき、本書の”僕”も今は都会に暮らしている。だが、人は本当に土地から逃れることなどできないのだと著者アバーテは言う。曰く、

土地は嫉妬深い愛人さながらに絶対的な忠誠を求めてきて、見捨てようものなら、いつの日か必ず人を土地に縛り付ける秘めた物語を持ち出し脅す。

その言葉の通り、”僕”はまさに今丘に求められている。
そして、その背後には秘密を共有する曾祖父母や祖父母もがいるのだ。
人間らしく生きるということはどういうことなのかを教えてくれる一冊。

イタリア行きたい・・・!

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