2000年度の江戸川乱歩賞受賞作「脳男」の第三弾。
「脳男」はこれがデビュー作とは思えないほどで、この年の週刊文春ミステリー1位。映画化もされている。この頃は国内ミステリもよかったんだよなぁ。
続く「指し手の顔 脳男2」も、前作に劣らないインパクトで記憶に残っていた。
そんな「脳男」から21年・・・。
ようやく、ようやく、パート3がお目見え。
何せ20年以上も経っているので、ついでに「脳男」と「指し手の顔」も読み直したけど、この「脳男」シリーズはパンチがあっていいなぁ。
実は、紙の本(しかも単行本)も持っているけど、Kindleで買いなおしてしまった…軽く自己嫌悪。
新たに買うのは罪悪感アリアリだったけど、電子の便利さに慣れてしまうと、もう紙には戻れないのよね…
「脳男」と「指し手の顔」を読んだことのない方は、絶対読んだ方がいいです!ただしややエグめ。
待望の本書では、初っ端に今の時代を感じさせるニューキャラ登場。
20代半ばにして、階級は警視の鵜飼縣(うかい あがた)だ。外国育ちで謎に包まれた過去を持つ彼女は、サイバースペシャリストとして登場する。
そんな彼女のたった一人の部下、ハッカーあがりの桜端道(さくらばな とおる)が、拷問を伴う連続殺人と思しき3件の事件を掘り起こすことから、物語はスタートする。
その3件の殺人は、いずれも未解決。殺害場所がバラバラで、被害者に性別、年齢等の共通点もないことから連続殺人とはみなされていない。
ただ、これらはたったひと月のうちに起きており、手口からして同一犯の可能性が疑われた。
興味を持った縣(あがた)は、被害者3人がそれぞれが固執していたものが共通して「愛宕市(おたぎし)」に関係していることに気づき、単身、愛宕市にむかう。
時を同じくして、愛宕市の名士、氷室財閥の当主もまた拷問の末殺害されていた。縣が追っていた3人の被害者と同じ手口だ。
県警本部の茶屋警部と縣は協力して捜査にあたるのだが…
「脳男」、「指し手の顔」でお馴染みの愛宕市(おたぎし)は架空の街。
規模的には名古屋くらいだろうか。
この架空の町で起こることは浮世離れしているのだが、だからこそ、現実にある東京でも大阪でも名古屋であってはならず、愛宕市でなければならない。
また、かなり綿密に作り込んではあるが、完全リアリティー追求型の小説ではないので、それを求める人には合わないと思う。
かくいう私も、リアリティー型小説なのにもかかわらず、非現実的且つご都合主義的設定があると、アレルギーを起こしてしまう。それはそれこれはこれと、統一して欲しい派。
この小説はそもそもがどこか非現実味が漂い、それが逆に不思議な魅力になっているように思う。
またダイレクトではないものの、前作、前々作を引き継ぐ形になっているので、本作から読み始めると少し情報不足で少々混乱してしまうかも。
3人と氷室家当主はなぜ拷問され殺されたのか。
そこに、脳男こと鈴木一郎はどう絡んでくるのか。
鈴木一郎を担当していた精神科医、鷲谷真梨子と事件の黒幕はどういう関わりがるのか。
タイトルのブックキーパーとは一体どういう意味なのか。
複雑に張り巡らされた伏線はほぼ回収され、個人的には読み応えもあった。だが、完結はしていないので顛末に納得できない人もいるだろう。
この著者のペースだといつになるのかわからないが、間違いなく次作はある。そして次作のほうが、展開的にも面白そうだ。
縣と彼女の両親のことも、明らかにされそうな気配もあるし。
なので、本作単独での評価は下しようがないというのが正直なところ。それでも十分に面白いし、久々にワクワクした。
あと一点、難をあげるならば、登場人物のライトノベル的というか厨二的な名前かな。ここまで凝る必要あったのかな?
縣が、かの「シチリアのアガタ」を意識したものだとすれば、先行き不安すぎるのだけど…
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