プロローグで語られるのはある黒人女性の死。
テキサス州の田舎で車を走らせていたサンドラ・ブランドは、車線変更時に方向指示器を出さなかったため、エンシニアという警官に車を停車させられる。そして、押し問答の末、暴行をはたらいたとして逮捕されるが、3日後に留置所で自殺してしまうのだ。
2015年の出来事だが、現在米国で巻き起こっているBLM運動の契機となった事件に似た点が多くある。
著者、マルコム・グラッドウェルが本書執筆しようとしたのも、まさに黒人が射殺された例の事件がきっかけだという。
余談だが、現在開催されているUSオープンテニスでも、大坂なおみちゃんが被害者の名前のマスクをして抗議しているのも話題になっている。
調子も良さそうなので優勝の可能性も高いけど、優勝スピーチでもそれに触れるんだろうな・・・
略奪とか暴動さえなければ、BLM運動はもっと日本でも支持されると思うんだけどなぁ。
トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと
読者に提示された謎は、「なぜ、サンドラ・ブランドは死ななければならなかったのか?」だ。
「他人を理解することの難しさ」を軸に、その謎を解き明かしていく。
最初のとっかかりは、「人はデフォルトで他人を信用してしまう」という性質を持っているということだ。つまり性善説。それに加えて、何を考えているのかは表情を見ればわかるという思い込みだという。
なるほど〜!と思いつつ、「それが件の黒人女性の自殺とどう結びつくのか?」と訝しみつつ読んだが、これが「あっ・・・」という華麗な着地(笑)
ただ、正直不満がないわけでもない。これでBLM運動をしている人々が納得してくれるのかと言われれば、それは到底無理なのではないか。
ここで最初に明らかにされるのは、人間が元来持ち合わせているデフォルトで人を信用するという性質に逆らうことのデメリットだ。
確かに、普通の人にとってはメリットよりデメリットの方が大きい。
サンドラのようなケースでも、複数の悪条件が重なり、最悪の事態を招いてしまったわけだが、そうせざるを得ない職業もやはりあるし、そうせざるを得ないケースもあるのは否定できない。
分析は間違っていないと思うが、だからといって決定的な解決策にもならないのでは?という焦ったさがある。
げに恐ろしきは人間なり、とはよく言ったもので、私たちは自分たちの予想に反する反応をする人を恐れるようにできている。
そういうふうにできているのだろうなぁと思うと、こうした人種問題や移民問題の難しさをつくづく感じる。
本書を読んだ多くの人が、ミステリー仕立てと指摘しているが、実際、その通りの印象。
普段ノンフィクションを読み慣れない人でも、抵抗なく読めると思う。また、ノンフィクション界の村上春樹の異名をとるだけあって、文章が平易で読みやすいのも特徴だ。
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