パードレはそこにいる / サンドローネ・ダツィエーリ

週末の読書会の課題本「熊と踊れ」の直後に読んだのがこの「パードレはそこにいる」本邦初の作家によるイタリアン・ミステリーである。
あちらは、「制裁」「死刑囚」「三秒間の死角」でその実力を知っていたので、驚きはあったものの想定の範囲内だったが、こちらは予想以上に面白かった。というかがこういうのがそもそも好きなのだ。

 

 

主人公は、事情があって休職中の女性警官(機動隊副隊長)コロンバと、これまたワケアリのコンサルタント、ダンテ・トッレの二人。
ダンテは幼い頃に誘拐され、11年間農場のサイロに閉じ込められていたという過去をもつ。彼はその筆舌に耐え難いその経験から得たことを活かし、今は誘拐や自発的失踪人の捜索のコンサルタントをしている
 
ここで、すぐさま思い出すのが「カルニヴェア」のダニエーレとビッチなカテリーナだ。
「カルニヴィア」のダニエーレも幼い頃に誘拐されて両耳を失いトラウマを負っているが、ダンテも片手に障害がある。
そして、女性警官(イタリアでは憲兵隊や機動隊)がもう一人の主人公として据えられているのも同じ。
ただし本書「パードレはそこにいる」のコロンバは、カルニヴェア三部作のカテリーナに比べれば、かなり人好きする。
ビッチのカテリーナのファンは特に女性読者には少ないだろうし(笑)
 
両作品の設定の違いは「カルニヴィア」はヴェネツィア、本書はローマということと、方や英国人、方やイタリア人作家によるものくらいかもしれない。それと「カルニヴィア」にはもう一人主人公がいることくらいか。
訳者によれば、本書の著者、ダツィエーリは、”よそ者からみたローマの子”と、”心に闇を抱えた人間”を描こうとしたのだという。
本書はイタリアンミステリとしては「6番目の少女」の系譜に連なるものだと言われるが、思うにより近いのはジョナサン・ホルトの「カルニヴィア」で、キャラのみならず、予想外に大きな拡がりをみせる展開の仕方も似ていると思う。
 

  

 
しかし所詮「カルニヴェア」の二番煎じなのじゃないかなぁ?
下巻に入るくらいまではそう思っていたが、考えが変わった。
 
これは、これでアリ。
今年読んだ中でもかなりエキサイティングな秀作だ。
「似ている」のは確かだが、出来の良さがそれを打ち消すのだ。イタリアのおっさんさすが。
「96時間」のパクリとは訳がちがう〜
 
 
Sandrone Dazieri 
 
 物語は、ローマ郊外で首を切断された女性の遺体が発見されるところからはじまる。女性は夫と息子とともにピクニックにきており、その夫は疲れ果てた様子で妻と息子を探していたところを発見された。6歳の息子は行方不明だ。
容疑者として夫が逮捕されたが、捜査のやり方を案じた警察幹部のローヴェレは、休職中のコロンバに内々の調査を依頼する。
出世争いの最中のローヴェレはこの件でライバルを出し抜けないかと目論んでいたのだ。おまけに、うまくいけば6歳の男の子の命を助けることもできる。
 
ひとりではできないというコロンバに、ローヴェレが相棒として推薦したのがダンテだ。
ダンテは、自分を誘拐監禁した犯人、”パードレ”は未だ捕まっておらず、この事件の裏にも彼がいると確信していた
コロンバは半信半疑のまま彼とともに事件を追うが・・・
 
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後半は、この冒頭からは想像もできないくらいの劇的な展開をみせる。
それに、あらすじを読んで「?」と思われた箇所にもちゃんと答えが用意されているのでご安心を。
その合間を縫うように、コロンバが心的外傷を負い休職している理由や、ダンテのさらに隠された過去もが明らかにされる。
事件の真相のみならず、ここにもまたサプライズが隠されているというわけなのだ。
 
ちなみに、「パードレ padre」というのはイタリア語で「父」という意味らしい。パパよりも改まった言い方だという。
 
エンタメ性も高く、登場人物も親しみやすいし、読みやすい文体なのもいい。
この後、三部作くらいにまでなりそうなのも「カルニヴィア」的だが(笑)、これはこれで”アリ”なのだ。
晩秋の夜長にいかがだろうか。
 
 
 
 

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