「このミステリーがすごい!大賞文庫グランプリ」受賞作。
大変紛らわしいのだが、この賞は年末に出る「このミス」とは別もので、宝島社が主宰しているミステリー新人賞らしい。
国内ものは最近あまり読まないので、知らなかったよ。
なんだ、新人賞と侮ることなかれ。
これがなかなかなのインパクト。
【2021年・第19回『このミステリーがすごい! 大賞』文庫グランプリ受賞作】暗黒自治区 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
まず、設定がいやらしい。
舞台設定は現在だが、日本は近隣諸国、主として中国に統治されている。日本人は”和族”と呼ばれて蔑まれ、高級住宅街の豪邸やタワマンに住む内地人(中国人)に見下ろされて暮らしている。
島国日本の美徳だった”和を以て尊しとなす”はもはや通用せず、中国人特有の、自分だけがうまく生き残ることを最優先にしなければ生きられない国になった。
蹂躙の限りをつくされた結果、琵琶湖をはじめとした水資源は工場排水によって極度に汚染され、地下鉄もろくにメンテナンスされることもない。
近い将来、決してあり得ないことではないこの状況に、まず打ちのめされる。
リアルに舵取りを一つ間違えると、こうなりかねない可能性は高いのだ。今回のコロナ禍で一人勝ちとも言われているし、観光依存で困窮している地方から侵食されていきそう。
本書では横浜がメインの舞台だが、その横浜は場所によっては今でさえもう、という部分もなきにしもあらず。
中国共産党の元幹部を拉致しようとして失敗した由佳は、チーム内で唯一、警察に拘束されてしまう。
国連警察へ由佳の護送を担当するのは、神奈川公安の雑賀だ。
由佳は、実は雑賀の今は亡き上司の娘だった。今回の護送任務は雑賀たっての申し出で、丁寧に根回しをして勝ち得たものだった。
ところが護送の最中、高速道路で護送車は何者かに襲撃を受けてしまう・・・
嫌だ!!!ああ嫌だ!嫌だ…と拒絶反応を起こす暗黒設定を舞台に描かれるのは、ガチガチのハードボイルド。アクションも派手め。
はっきり言ってミステリー要素はあまりない。
何を考えているのか読めない男、雑賀の本当の目的は何か、襲撃犯の目的は何なのか、あるにはあるのだが、割とあっさりと明かされたりする。
ハードボイルド色が強いが、公安警察モノ的な雰囲気もあるかな。いかにも続編がありそうな終わり方も余韻がある。
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