偽装死で別の人生を生きる / エリザベス・グリーンウッド

「偽装死で別の人生を生きる」とか、フィクションではしばしばあるが、現代社会で可能なのだろうか?

 

別の誰かになる、というのは実は誰しも密かに憧れていることでもあるが、本書の著者はこれを大真面目に検討していた。なぜなら、ラストベルトの片親家庭に生まれた彼女は、大学進学のために莫大な奨学金ローンを抱えていたからだ。

この奨学金ローンは通常の負債と異なり、自己破産してもなくなりはしないのだという。今、日本でもこの奨学金の返済に苦しんでいる人が増えているというが、学費がバカ高いアメリカの奨学金ローンは桁が違う(いずれ日本もそうなるのだろう)。

 

学校を出て人生これからというときに、既に10万ドルもの借金を背負い、月々返済し続けているのにもかかわらず元金がほとんど減らないという。裕福な同僚を尻目に、自分は返済に四苦八苦しなければならないことを思うと、何もかもから逃げ出したくなるという気持ちもわからなくもない。

先進国の貧困の苦しみは相対的なものだが、相対性こそが幸福感を決めたりするのだ。「金持ちの隣人がいるほど自殺率が高まる」という研究結果もあるというくらいだから。

 

ところで、「偽装死」で別の誰かになって生きようと決意する人の主な動機は、カネと暴力の二つに分けられるという。

前者はいわずもがな。後者は女性に多くDVから逃れたい場合だ。

そして、意外なことに「偽装死」だけでは米国では法には触れないという。ただし、この「偽装死」により別の誰かになりすましたり、ましてや生命保険金をせしめようとすれば、話は別だ。

 
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実際に「偽装死」をし失踪した人、失踪請負人、それを暴く人へのインタビューはリアルでとても面白い。本書にでてくる失踪請負人は、「完全履歴消去マニュアル」の著者の一人としても有名なF・アハーンである。

アハーンの本はライフハック日本版に簡単にまとめられているので、ご参考までに。

 

1、身元をあいまいにする

2、社会的繋がりを最小限にする

3、カードは使わない。現金払いが原則

4、とにかく嘘で身の回りを固め、偽の情報をばらまく

5、資産管理をする会社を設立する

6、やる気と強さがなければ、失踪すべきではない

日本と米国では事情が異なるため、参考にはならないという人もいるが、わたしは基本は同じだと思う。物件は資産管理会社の法人契約にすればいいし、出国しなければパスポートも必要ない。戸籍や住民票が必要とされるシーンは限られている。
ただし、これをクリアするためにはそれなりの資金が必要だが。

動機の多くは金だというのに、その金がないと「失踪」も「偽装死」もできないというこの皮肉…

 

ところで、本書中、「失踪」と「偽装死」はごっちゃになっている間もあるが、両者は本人にとっても残された者にとっても異なる。「偽装死」ならば諦めるだろうが、「失踪」なら家族はずっと探し続けるかもしれない。

「失踪」ならば、もしかして元サヤに戻れるかもしれないが、「偽装死」の場合、果たして騙された家族は受け入れてくれるだろうか。

 

幸いなことに私自身は今の所、「偽装死」も「失踪」も必要はないが、もしも自分が今SNSで自分の妻から猛攻撃を受けている某俳優だったら偽装死もしたくなると思う。「失踪」だと諦めてくれないだろうし。

 

「偽装死」に成功したという人は本書には出てこない。著者が見つけられなかっただけで成功者もいるのかもしれない。

著者は、「偽装死」された家族にもインタビューしているのだが、そのダメージは大きい。それは親兄弟友人を騙し、一切合切の人間関係を断ち切るということなのだから。

 
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結論からいえば、自らの死亡証明書は想像よりもずっと簡単に入手可能だ。フィリピンやそれに類する政治機構が腐敗した地域に赴き、プロの手を借りて死を偽装しさえすれば。
日本で暮らすという選択肢を捨てれば、物価の安いフィリピンなどの第三国でそのまま死亡したことにし、生きて行くということもできるかもしれない。

もしかして、実際にそうしている人だっているのかもしれない。

 

充分面白かったが、やはり実際に「偽装死」しているという経験者の話が聞きたかったかなぁ

彼(彼女)が今何を思い、どう暮らしているのかが知りたかった。

まぁ、そういう人は決して公の場に出ることがないからこそ、それに成功しているのだろうけど。

DNAレベルで人間は社会的な動物であるというが、その全てを断ち切っても幸福でいられるのか、それが知りたかったなぁ。

 

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