キモい読者の大暴走、キングの「ファインダーズ・キーパーズ」

「ファインダーズ・キーパーズ 」は、S・キングのエドガー賞受賞作「ミスター・メルセデス」 の続編。定年退職した元刑事ボッジスが活躍するこのシリーズは三部作で、本書は二作目に該当する。

 

 

 

前作で活躍した、ホッジス、賢い黒人少年のジェローム、PCおたくでコミュ障のホリーの三人組が帰ってきた。あれから早1年、どれほど待っていたことか。
ホッジスはホリーとともに「ファインダーズ・キーパーズ 」という私立探偵事務所を開いて活躍しており、ジェローム少年はハーバードに進学して今は大学生になっている。
しかし彼らの出番は後半部分になってからだ。

本書の主人公は別にいる。
それがキモい読書家の犯人モリス・ベラミーと、34年後、彼が隠したスーツケースを発見した少年ピート・ソウバーズだ。

モリスは、アメリカの偉大な文豪ジョン・ロススティーンが生みだした「ランナー・シリーズ」の主人公、ジミー・ゴールドに心底傾倒していたが、最終巻に不満をもっていた。
ロススティーンはジミー・ゴールドを主人公にしたこのシリーズを三作ほど出版した後はサリンジャーのように隠遁生活を続けていたのだ。
1978年のある日、彼は二人の仲間とともにロススティーンの家に強盗に入る。彼らはロススティーンを殺し金庫から多額の現金と、大量のノートを盗み出す。そのノートはロススティーンが隠遁してから書き綴っていたもので、「ランナー・シリーズ」の続編までも含まれていた。ファン垂涎のお宝だ。

時代は下り、2010 年のある日、ピート少年は自宅近くの川で多額の現金とノートが詰まった古ぼけたトランクを発見する。
ピート少年の父親は、「ミスター・メルセデス事件」の被害者で、あの無差別テロで脚に怪我を負い、ただでさえ不況で苦しかった一家の生活は困窮していた。金が原因で喧嘩ばかりの両親の様子に心を痛めていたピートは、その金で家を救おうと決心するが・・・

このモリスがめちゃくちゃキモい。キモくてバカで壊れている。
よくある読書家のイメージは知的で物静かといったところだろうが、彼は真逆だ(笑)モリスのように勝手に妄想を膨らませるキモくてヤバイ輩も多い。というか、小説好きなんて自分も含めてそういうのがほとんどだろう(笑)
ええ、キモい自覚はありますとも!それが小説の醍醐味でもあるのだし。

キングは相変わらず、いいところを突いてくるなぁ。
ただ、我々キモオタ読者はモリスと違い、作家もリスペクトしているし、犯罪はおかさない。

妹思いのピート少年の事情と葛藤は読ませるが、しかしこのモリスの小物感は否めない。ホッジスたち三人にとっての真の敵たり得ない部分もある。
二作目なので、つなぎ的役割も大きいのだろうが、次の三作目こそは「これぞ、モダンホラーの帝王キング!」というような展開が期待できそうだ。
わずかではあるが、その予兆も描かれている。

本書を含めて、この三部作は「ミスター・メルセデス 」に始まり、「ミスター・メルセデス 」に終わるのだろう。

 

ちなみにタイトルにもなっている「Finders Keepers」というのは、ホッジスとホリーの人探しが専門の探偵事務所の名称だが、「落し物は拾い得、なくしたら泣きをみる」という意味だそうだ。
本書そのものを表すにこれ以上のものはないが、最近スマホを落とし無事に戻ってきた身としては、この国民性に感謝である。

 

 

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