気がつけば、10月。何に追われているわけでもなく過ごしているのに、月日の過ぎるのの早いこと、早いこと。こうしてトシをとっていくわけなのだ。
さて、本書「生か死か」は、2015年度のCWAゴールドダガー賞受賞作なのである2014年のものは好きではなかったので期待していなかったのだが、これが想像以上によかった。
2015年のゴールドダガーには、キングの「ミスター・メルセデス」もノミネートされておりそれを制しての受賞だったのだとか。キング作品は英国向きではないし、エンタメ的な「ミスター・メルセデス」よりこちらのほうが好きだという人も多いのかもしれない。
↑ロボサム氏
物語は、仮釈放を明日に控えたオーディ・パーマーが脱獄するシーンに幕をあける。オーディは10年前、現金輸送トラック襲撃事件の犯人の一人として逮捕され、テキサスの刑務所で刑に服していたのだ。
まんまと逃げおおせたのはオーディの兄のカールのみで、強奪された金は当時としては最高額の700万ドルだった。カールはそれを持って逃亡したとされていた。
強奪された金は廃棄予定の紙幣だったため、印もなく通し番号もない。つまり古くとも足のつかない金だ。
オーディが入所したその日から、囚人はもちろん看守までもが700万ドルの金の行方を知りたがったが、オーディはついぞそのありかを吐くことはなかった。
時は流れたが、カールについての曖昧な目撃情報が時折あるものの、事件は未解決のままとなっていた。
オーディはなぜ釈放を待たずに脱獄したのか?そして10年前の事件の真相とは?
どうこう方向に進んでいくのだろうかと思いきや、物語は意外な着地をみせる。
「生か死か」というと思い浮かぶのかハムレットのセリフを思い浮かべるが、本書ではそれは”復讐”の意味ではない。本書は、いうなれば”純愛”の物語なのだ。私にような中年のおばさんにとっては、これが眩しい。
もう一つ良かったのは、キャラクターに深みがあることだろうか。
率直にいって、主人公オーディほど運の悪い人間もそういない。彼のムショ友達のモス曰く、人は苦難、絶望、失意、悲嘆、残酷、死にいずれ出会うことになるが、オーディの場合、毎日そのどれか三つに出あい続けたといっていい。だが、彼は驚くべき精神で生き抜き、ある約束を果たそうと前に進み続ける。その姿には心打たれるが、真相がわかるとさらに高尚さが感じられた。
モスもいいキャラなのだが、異常に背が低いことがコンプレックスのFBI女性捜査官デジレーもまた魅力的だった。身長を伸ばすのが無理ならば、精神的、社会的、職業的に伸ばせばいいと考える前向きな頑張り屋さんなのだ。
訳者の方もあとがきで、モスとデジレーの活躍を別の形でもう一度みたいとおっしゃっていたが、一回限りではもったいないと私も思う。
本書はあのキングが絶賛したそうだが、いかにも彼が好きそうな感じである。
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