古書泥棒という職業の男たち 〜20世紀最大の稀覯本盗難事件 / トラヴィス・マクデート

私には収集欲がないのでコレクター心理はわからないが、彼らは自分のコレクションを完成させるために労も費用も惜しまないという。絵画しかり、宝石しかり、稀覯本しかり…
市場があるゆえにそれらの値は上がり、当然、そこに品物を供給する手段を選ばない者もでてくる。
 
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冒頭には、本書の主役ともいえる、エドガー・アラン・ポーの初期の詩集「アル・アーラーフ」とポーの人生について記されているのだが、その運命の皮肉と不思議を思わずにはいられない。
エドガー・アラン・ポーは、貧苦の中で生まれ貧苦の中に死んでいったが、「アル・アーラーフ」は死後1世紀の時を経て、途方もない価値を生んでいるのだから。
 
本書は、稀覯本をめぐる窃盗と、それを取り戻そうとする人々の攻防が織りなす物語だ。稀覯本の盗難が絵画や宝石のそれと大きく違うのは、それが万人に門を開いている図書館から盗まれたということだろう。
稀覯本のもっとも品揃えがよい場所は、セキュリティに隙のある公立の図書館なのである。
今の図書館は、セキュリティも厳しく、特に貴重な本は地下の書庫に厳重に保管されているが、本書の舞台のアメリカ大恐慌時代はそうではなかったのだ。
失業者が列をなし、食べ物や着るものにすら困っているその時代、それを狙うものたちにとって、図書館は宝の宝庫だった。被害は公立の図書館のみならず、ハーバードなどの大きな大学の図書館もそのターゲットにされたのだ。
 
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稀覯本の窃盗団は組織だって編成されていた。大恐慌下で失業者があるれる時代、図書館から本を盗み出す下っ端には事欠かなかったという。
そして驚くことに、その元締めはニューヨークのブック・ロウと呼ばれる古書店街の店主たちだったのだ。
古書ビジネスにかかわるものたちにとって、図書館はもっとも安価な仕入先だったのだ。
 
当然、図書館側も盗難を阻止すべく独自の捜査員を置くのだが、ニューヨーク公共図書館のバーグキストはその中でも特筆すべき人物だ。
自身が捕まえた本泥棒を更生させるほどの人格者で、本泥棒という罪を世間に認めさせようと奮闘した人物でもあった。
当時本泥棒というのは、たいした罪ではないという認識で、本泥棒たちは捕まってもすぐに釈放されることが多かったのだ。
 
著者のマクデート氏は、古書窃盗研究のエキスパートで、本書のほかに2冊ほど古書窃盗関連の本を上梓しているという。前2冊と本書との違いは、経緯だけでなく、登場人物たちの背景やキャラクターに重点をおいていることだという。
 
描写は淡々としたものだが、それがかえっていい味になっていて、ノンフクションを敬遠しがちな人にとっても、十分楽しめる内容になっている。
 

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