モロッコ続きなので、たまには読書ネタ。
本書「傷だらけのカミーユ」は、カミーユ・ヴェルーヴェン警部三部作の締めを飾る作品だ。
「アレックス」「イレーヌ」を読まれた方はご存知だろうが、簡単に主要キャラを紹介しておくと、主人公のカミーユ・ヴェルヴェールは145cmという低身長のパリ市警の警部だ。彼が率いる班には、ブランド品で身を固めた品も頭もいい御曹司のルイをはじめ、極度の吝嗇家で貰いタバコに命をかけているアルマンがいる(た)
さて、物語は「悲しみのイレーヌ」で起きてしまった悲劇から5年たちカミーユに新たな出会いが訪れるところから始まる。
彼女の名はアンヌ。しなやかなブルネットに澄んだ薄緑の瞳の美しい女性だ。次第にアンヌはカミーユの一部になっていった。
しかし、それもつかの間、二人の幸せはもろくも崩れ去る。
アンヌは宝飾店で強盗に出くわし、激しく執拗な暴力を受けて重症を負う。命こそ助かったものの、美しかったその顔は叩き潰されてしまった。
アンヌがその宝飾店へ行ったのは、カミーユへの贈りものを受け取るためだった。
アンヌを襲った強盗一味は、有名なセルビア人が率いる一味と思われ立て続けに4件も襲っていたのだ。激しい憤りによって我を忘れたカミーユは、大規模なセルビア人狩りを行うが成果はあがらず、自らの立場すら危うくしてしまう・・・
まず、最初に驚いたのは、私が最も好きだったあのケチのアルマンが食道癌で亡くなってしまったことだ。結構サラっと。ルメートルのこのカミーユ・シリーズは、激しい暴力と残忍さ非情さが定番なのだが、唯一それを和ませてくれるのがマルマンの存在だったのに。
したがって、本書には和みの要素はない。和みどころか今回カミーユはあのルイにすらも頼ることなく一人で闘うのだ。チームで捜査を行ってきたこれまでとこの点が決定的に違う。
解説の方は、「特捜部Qシリーズ」に匹敵する警察小説であると言っているが、本書に限っていえば、ハードボイルドに近いと思う。一人称ではないけれど。
器用とはいえないカミーユの生き方は、マーロウのそれに当たらずとも遠からずといった感もある。もしかしてこのために、アルマンを排したのだろうか。
物語はカミーユ自身の視点と、犯人のそれの2つの視点から語られ、後半その正体が明らかにされるのだが、カミーユ・シリーズのファンなら最初から犯人の正体に気づいてしまうだろう。
そのためにミステリ小説たりえないところもあるのだが、陰影濃いハードボイルドとしては読み応えがあった。
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