サスペンスと情動「プエルトリコ行き477便」

まず、昨日の安倍元首相の事件には驚いた…
心より、ご冥福をお祈りいたします。

 

さて、あまり馴染みない二見文庫。アマゾンを見てると購入履歴からのおすすめで出てきたのがこの本。これがなかなかの掘り出し物だった!
私は本は全て電子版を買うのだが、なぜか文庫と単行本では価格が違うw  
日本は30年デフレだったけど、本だけは割と順調に値上がりしていて、今や単行本なんて3,000円以上というのも珍しくない。上下巻だと6,000円なり…OMG
その点、やっぱり文庫はお手頃でいいよね。

  

物語はニューヨークの空港から始まる。
主人公は、名門の一族に嫁いだクレアと、エヴァという謎の女性の二人。交互に語られるパターンだが、主にクレアの視点から物語はリードされる。
というのも、最初からクレアは問題を抱えていることが明らかにされているのだ。

クレアは夫のDVDに耐えられなくなり、失踪を計画していた。半年かけて厳しい夫の目を盗み少しづつ金をため、失踪の準備をしデトロイトからカナダへと逃げる寸前だった。

ところが直前になって、急にプエルトリコのチャリティーに行くことを命じられる。必死に貯めた金や偽造パスポートはデトロイトに送られており手元にはない。
何もない状態でニューヨークの空港で声をかけてきたのがエヴァだった。エヴァはある事情から逮捕の危険性があるとのことで、お互い身分を交換することに。
ところが、エヴァがクレアにしていた話は全部でっち上げだったのだ…

進行形のクレアの物語は手に汗握るサスペンス風で、過去形で語られるエヴァの物語はかなり情動的。この二つのバランスがいい。

結果、一方は夢を掴み取ることができるが、より記憶に残るのはそうではなかったもう一つの物語の方だった。

読後、その差はなんなのだろうと思いつつ後書きを読むと、著者が意図していたのは「困った時に他者に救いを求められるか」ということらしい。
なるほどとも思ったが、よく考えるとそれこそが「どうしようもない部分」で、やるせない気分にさせられた。

本書のテーマは、#Me Too に代表されるような女性への虐待と失踪はできるのか、ということだろう。
後者については、以前「偽装死で別の人生を生きる」をよんだことがある。こちらはノンフィクションだが。

フィクション、ノンフィクションを問わず、結局、完全に別の人生を歩むなどということはかなり困難だ。
まず資金面の問題があるし、裏社会とのコネも必要になる。特に、追っ手側に”力”がある場合は、まあ普通は無理だよね。
結局、向き合わないことにはどうにもならない。

ここで話は大幅に横道に逸れ、冒頭の安倍元首相に戻るのだが、彼に対してはメディアもネット上でも、かねてより批判的な声があった。アベノミクスは大失敗だ、お友達優遇政治だ、長期政権による腐敗だ、云々かんぬん。
そうした「声」は今日の自分の不幸は何もかもが安倍さんのせいだと結論づけられて、「安倍ガー」とか「アベノセイダー」とか呼ばれていた。

堀江氏が、昨日の忌まわしい事件は「安倍ガー」のせい、反省しなさい的なことを言っていたが、私も最初にそれを感じたな。

犯人は海自出身とのことだったが、属していたのはたった3年程度で、現在は無職とのこと。
欧米並みに資本主義が熟してきたため、日本でも格差が叫ばれるようになり、政治に不満を感じている人は増えている。
と言っても、日本の格差なんか欧米に比べればまだそこまでではないし、医療福祉もかなり充実しているけども。

人は二元論に陥りやすい。ロシアが悪ならウクライナは善だと思いたいし、自分が悪くないのであれば、誰かのせいだと考えた方が楽だ。その短絡思考にメディアや野党がお墨付きを与えた。
すなわち、「あなたの現在の貧困と困窮はあなたのせいじゃない、安倍のせいだ」「自民党と安倍さえ倒せば、虐げられていたあなたたちは一転お金持ちに幸福になれます!」的な。
安倍ガー教のこのありがたい教えは、安倍さんが首相の座を退いてなお、世に溢れていた。
何度も何度も繰り返し聞かされれば洗脳される人もいるし、藁にもすがりたい人もいる。

この事件の動機はまだ解明されていないが、もしも安倍ガー教に毒されたせいだとしたら悲しすぎる。

何もかもが自民党政治のせいだとして、政権交代をしたら、自身の苦境や不満が解消されるのかといえば、誰がどう考えたって明らかに絶対100%そうはならない。
過去の例からしてもね。

今の世の中は、橘玲氏がその少々露悪的な著書でしつこく言っている通り、「残酷な世界」なのだ。
かつてサッチャーが言ったように、「お金持ちを貧乏にしても、貧乏な人は貧乏なままです」が現実。

現状の資本主義、民主主義のままで、それを誰もが納得しつつ不平等を解消できる方法はない。
みんなが平等に幸福を感じられる世の中は、映画マトリックスのの、AIが人間を管理する世界くらい?

結局のところ、本書のように、時には誰かを頼ったりしつつも、自分自身で向きあうしかないのではないかしら。

大幅に話は逸れたけれど、サスペンス部分もなかなかに面白く、結構掘り出し物の小説なのでしたw

 

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