三部作全てヒューゴー賞の地球破滅SFシリーズ「第五の季節」

SFはこれと三体Ⅱ 黒暗森林を同時進行的に読んでいたのだが、私はこちらの方が断然タイプ。
前人未到、三部作全てがヒューゴー賞受賞は伊達じゃなかった!
それに、、、著者はちょっとだけ大坂なおみちゃんに似てる。

 

第五の季節 〈破壊された地球〉 (創元SF文庫)

本書は地球破滅系のSFファンタジー三部作の第一弾。
コロナ禍に地球温暖化が原因と思われる災害・・・
今はまさに「6度目の大絶滅」にあり、我々人類が滅びてしまうのかと思うほどに酷いことが続いているので、神妙な気持ちで読んだ。あの本も衝撃だったなぁ。
どうぞこれ以上悪いことが起きませんように。

 

物語の舞台は地殻変動を続ける超大陸スティルネスを抱く地球。
この世界では、数百年ごとに「第五の季節」と呼ばれる大規模な地震やそれに伴う環境変化によって引き起こされる冬が訪れる。
スティルネスを支配している帝国は、オロジェンを従わせその力で文明の崩壊を防いでいた。オロジェンと呼ばれる人々には、地殻エネルギーを操る力があるのだ。しかし、オロジェンはその能力のために、人に恐れられ忌み嫌われている。

作り込まれた世界観の中、物語は三人の主人公の目線で、やや群像劇的に語られ最後にキュッと収斂する。
私は鈍いので気づかなかったが、ちょっと面白い構成かも。

一人目の主人公はオロジェンのエッスン。オロジェンであることを隠し、小さな町で夫と娘と息子と静かに暮らしていたが、ある日、夫が幼い息子を殺し、娘を連れて出奔してしまう。夫が息子がオロジェンだと気づいてしまったのだ。エッスンは夫と娘を探すための旅に出る。

二人目の主人公は少女ダマヤ。彼女の力を恐れる両親に納屋に閉じ込められていたが、オロジェンの養成組織フルクラムに引き取られる。

三人目はフルクラムで訓練されたエリートのサイアナイト。
彼女は海辺の都市アライアでの任務のため、オロジェン最高位の十指輪のアラバスターに同行することになる。
港湾の障害となっているサンゴを取り除くのが目的だが、アラバスターの子供を身ごもり、優秀な血統のオロジェンの子供を産むという使命も負っていた。

献辞は「ほかの誰もが無条件に受けている敬意を、闘い取らねばならない人々」に向けられている。
今色々と問題が顕著化している肌の色に関してもだろうし、LGBTに関してもそう。
自由のないオロジェンという存在はその象徴だろうし、性の寛容さに関してもそれが伺える。

特筆すべきは二人称の「あんた」という語りだ。これがなぜエッスンのパートだけなのかは、最後まで読むとわかる。
「あんた」と呼びかけられることで、エッスンの問題は自然に読者自身の問題となるし、同時に口承による神話的な雰囲気も作り出す。
原著はただの「you」なのだろうが、「あんた」という訳は秀逸。あなたでもお前でもちょっと違うなという感じ。
解説者は、”神話と歴史が混交”という表現を用いていたが、言い得て妙。どことなくイシグロの「忘れられた巨人」に似た不思議な雰囲気もあるが、でもしっかり派手でアメリカ的(笑)

ところで、終末論は多くの宗教において人々に好まれる定番だ。
大抵の場合、いずれ世界は滅びるという未来をさすが、実は遠い過去の記憶ではないかという説を読んだことがある。SFだったか宇宙論だったか忘れてしまったけども、なんとなくそれを思い出した。

著者はNASA主催のイベントーー科学を仕事として(たとえフィクションでも)扱うのであれば、正しく理解しているかという趣旨のものーーに参加した時、本書のアイデアが閃いたのだそうだ。
自身は科学性に自信がないと言っているが、この作り込まれた世界観を見れば、NASAのフォーラム参加者もそうそう異議を唱えることはなさそう。
巻末にこの世界での用語の説明がまとめられているが、こうした骨子の「きちんと感」にも好感が持てる。

キャラやストーリーも魅力的。設定ありきの物語ではあるが、決してそれだけではない。
これからエッスンはどうなるのか、物語はどこに向かうのか、はやく次が読みたい。

 

 

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