ああ、日本にもこういうのを書ける小説家がいるんだなと驚いた。麻薬戦争といえばウィンズロウだが、そう負けてないかも。
もちろん同じ土俵で語る事はできないし、そもそも本書「テスカトリポカ」で描かれるのは、麻薬より”臓器売買”の方なのだが。
面白かったので、「Ank : a mirroring ape 」も買ってしまったが、こちらもなかなか。
物語は二人の人物を中心に語られる。元メキシコ・カルテルの大物麻薬密売人(ナルコ)だったバルミロと、ヤクザとメキシコ人女性の間に生まれた少年、土方コシモ。
激しい対立抗争の果てにメキシコから逃れ、復讐と再起を決意するバルミロは、ジャカルタで元医師の臓器ブローカーに出会ったことをきっかけに、川崎で心臓移植ビジネスを立ち上げる。
やり方はメキシコ・カルテルそのもの。シカリオを育てあげ、圧倒的暴力で敵対者を屈服させる。
バルミロに見込まれたコシモもシカリオに加わるのだが…
タイトルの「テスカトリポカ」はアステカ神話の主要な神のこと。
メソアメリカの古代文明では生贄を捧げる儀式は広く行われていたらしいが、この「テスカトリポカ」の祭りでは生きた人間の心臓を捧げる。
一方、現代のバルミロのビジネスは子供の心臓移植。これらが絶妙にシンクロしていく。
フィクション、ノンフィクションともに麻薬戦争ものを読んでいると、しばらく脳裏から離れないような凄惨なシーンが多いが、もちろん本書にも登場。
苦手な人は苦手かも・・・
アステカ神話が絡むことでダークファンタジー的な雰囲気も漂うが、それより印象に残ったのは、資本主義と人間、双方の残酷性と暴力性だったかな。
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