失踪 / ドン・ウィンズロウ

ウィンズロウといえば、東江一紀さん。一昨年、鬼籍に入られてしまわれたのは周知の通りだ。
東江訳じゃないウィンズロウなんて、ナダルが優勝しない全仏と同じ。

実は恐る恐る読んだのだが、これが実にすんなり読めた。
というのも、これまでのウィンズロウ作品とはまた全然違う”極めてオーソドックスな文体”によるハードボイルド作品なのだ。

『野蛮なやつら』 『キング・オブ・クール』 で極めた、ビートのきいた文体とは180度変えてきている。
「極めた!」と思うや否や、スタイルを変えるのがウィンズロウ!

幅があるというか、引き出しが多いというか。
真に才能のある人は、決してワンパターンに甘んじたりしないものなのだ。

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アメリカ中西部、ネブラスカ州リンカーンで5歳の少女ヘイリーが失踪した。
ほんのわずかな時間、母親が目を離していた隙に忽然といなくなってしまったのだ。シングルマザーに育てられていた黒人と白人のハーフで、黒髪に緑の瞳の女の子だ。失踪当時は馬のぬいぐるみを持っていた
リンカーン署の刑事のフランク・デッカー(デック)は事件解決に奔走するが、手がかりのないまま時だけが過ぎていく。
統計的には、子供が誘拐された場合、およそ半分が最初の1時間以内に殺害され、3分の2が3時間以内に殺される。そして、24時間以内にほぼ100パーセントが殺される。

皆がヘイリーの遺体を探す中、デックだけは生きたヘイリーを探していた。
やがて誰もが望んでいなかったかたちで事件は展開する。今度の被害者は金髪碧眼の女の子だった。
目撃情報からかつてデックが逮捕した性犯罪者ゲインズが浮かび上がる。そして、金髪の女の子の遺体が発見される。
警察はゲインズ逮捕で事件の幕引きをしようとするが、ゲインズはヘイリーが持っていたぬいぐるみを知らなかったのだ。
納得のいかないデックは警察を辞し、一人ヘイリー捜索を続ける。
手がかりを追い、デックはニューヨークへやってきくるのだが・・・
New York City Fifth Avenue

前半は重苦しい警察小説の趣があるが、舞台がニューヨークに移ってからは、ウィンズロウらしい退廃的な華やかさがみられる。
ニューヨークでデックが出会うのは、ファッションカメラマン、売れっ子のファッションモデル、超高級娼館のマダム、パークアベニューに住む資産家といった面々だ。そして、ヘイリー失踪事件の顛末は、思いもよらない展開を見せる。

サスペンスとしても十分面白いのだが、本書の本質はハードボイルドにある。
読者をひきつけるのは、少し「古臭い」と思えるほどの信念ではないだろうか。
例えば、「約束」について、彼はそれを「決して他人に奪われない唯一のもの」と信じているし、女を殴る男は男ではないとも思っている。要するに、昔かたぎの心意気を持っているのだ。

そんなデックは、ウィンズロウのキャラクターにしては地味で、実直すぎるほど実直なタイプなのだが、それがまた新鮮だったりもする。

余談だが、ビッグニックスのハンバーガーを褒めるくだりなどは、ニール・ケアリーシリーズの頃からのウィンズロウのこだわりも垣間見られて、ちょっとにやっとしてしまった。あのお店は、確かに美味しかったけど、バカみたいに大きかった記憶が・・・

ところで、『犬の力』 が映画化されるそうだが、その続編『ザ・カルテル』をも含めた脚本になるという。監督はリドリー・スコットで、ケラーにはディカプリオの名があがっているのだとか。

 

 

 

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