悪人でないからこそ破滅する汚れたお巡りの哀歌。ウィンズロウの「ダ・フォース」

ニール・ケアリーのシリーズの頃から、ウィンズロウ作品は出れば読むようにしている。同じところにとどまることなく、いつも新しい何かを見せてくれるから。
本書「ダ・フォース」もそんなウゥンズロウの一味違う警察小説だ。

  

ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)
ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)

 

主人公のマローンが率いる「ダ・フォース」はニューヨーク市警3万8千の中の1パーセントのエリート。担当はマンハッタン・ノースといわれるハーレム地区だ。
彼のチームは銃と麻薬を主に取り締まり、誰よりタフで機敏で勇敢で善良、そして誰よりも悪辣だ。

プロローグでは、そのマローンがFBIに捕らえられパーク・ロウの拘置所にいる。
彼は破滅したのだ。
物語は時間を遡り、いかにして彼が破滅の道をたどったのかを描いていく。

単なる悪徳警官の破滅の物語かと思いきや、これがそうではない。

確かにマーロンたちは汚れたお巡りだ。警官の給料では子供を大学にやることはできないし、怪我や大病を患ったとき即座に行き詰る。だから麻薬をくすね、マフィアから賄賂を受け取り現金を奪う。だが悪人ではない。悪人ではないからこそ破滅する。
この矛盾が物語を面白くしている。

「汚れたお巡り」といえば、黒川博行のマル暴担当刑事の堀口と伊達もそうだが、マローンは彼らよりももう少し繊細かもしれない。一見派手にやっているようでいて、いつまで「副業」を続けるべきなのかを日々自答しているのだから。

共感しやすい主人公ではないかもしれないが、読み進めるうちにマローンの葛藤に飲み込まれていってしまう。
警察官は危険で心を蝕まれる仕事だ。だから常に平然としていられるように、彼は興奮剤や抗不安薬を常用してもいる。
彼の苦しみと葛藤は、謝辞を捧げられている殉職した大勢の警察官のものでもあるのだろう。

それとともに、重層的テーマになっているのが黒人差別の問題だ。警官が無抵抗の黒人に発砲する事件がうまく盛り込んである。
何と言ってもマーロンの愛人は黒人の女性なのだ。その黒人が警官に殺された事件について、マーロンの愛人クローディアは、「あなたはその青い制服を脱げばそれですむけど、わたしはこの黒い肌を脱ぐことはできない」といい放つ。白人のマーロンには決して理解できないと。
この人種を隔てる問題は物語の佳境で爆発点に達してしまう。

作中にもでてくるザ・ポーグスの「ニューヨークの夢」は、夢破れた男女がこんなはずじゃなかったと過去に思い巡らせる歌だ。マライア・キャリーやワム!ほどではないがクリスマスソングの定番でもある。これがマローンの物語と微妙に重なる。

ウィンズロウ作品には音楽性を感じるものも多いが、この曲が頭から離れなかった。もちろん田口俊樹さんの訳も素晴らしいが、こういうものこそは東江訳で読みたかったなぁ。

本書をキングは「ゴッドファーザーの警察版」と褒め称えたというが、ラストの部分はいかにもキングが好きそう。悲観だけで終わらせはしない。

 

 

 

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