猟犬 / ヨルン・リーホル・ホルスト

ド定番の警察小説。

主人公はノルウェーの警察のベテラン刑事、ヴェスティング。
娘のリーネはノルウェーの大手タブロイド紙の刑事事件記者をしている。好奇心旺盛な彼女にはぴったりの職業だ。

そんな折り、彼はリーネから「明日の新聞に、セシリア事件のことでパパのことが載るみたい」という電話を受ける。その事件は、17年前に起きた少女誘拐殺人事件で、まだ若手捜査員だったヴェスティングが初めて指揮をとった事件だった。この事件の解決で彼は優秀な捜査員だと見なされるようになったのだ。
しかし、その事件の犯人のハーグルンが、決定的証拠として採用されたDNA鑑定に意を唱えたという。
DNA鑑定に使われたタバコの吸い殻の証拠捏造を訴え、それが認められて釈放されたのだ。

新聞は一面でヴェスティングを糾弾しようとしていた。リーネは父の記事にとってかわるような記事を求め、フレドリクスタの殺人事件の記事を書くが、デスクを翻意させることはできない。
果たして朝刊にはヴェスティングの糾弾記事が踊り、ヴェスティングは責任を問われて即時停職を言い渡されてしまう。
折しも少女誘拐事件が起きたばかりだが、今の彼には何もできない。停職処分は形式上こうするしかない妥当な決定だ。
しかし彼にはハーグルンが犯人だという自信があった。ハーグレンの目にはまぎれもない悪意が宿っていたのだ。

自らの無実を証明するには行動するしかない。ヴェスティングは当時の捜査資料の見直しをしていたが、何者かが侵入した痕跡に気づく。

一方のリーネは、フレドリクスタの殺人事件を追っていた。しかし、その事件の被害者の家で彼女は何者かに襲われてしまう…

誰が証拠品に手を加えたのか?
そしてハーグレンは無実で真犯人が他にいるのか…?

「ガラスの鍵賞」「マルティン・ベック賞」「ゴールデン・リボルバー賞」の三冠に輝いたというから、期待していた。だって、最近面白い警察小説なんてお目にかかってないから。

 

でも普通。超ド定番。よくあるやつじゃない?
みんな「三冠という釣書」に盛大に釣られすぎ。

物語自体、基本に忠実で素直な直球ストレート。綺麗に纏まっている。
なんでもは、ヴェスティング・シリーズの第8作!らしいのだが、主人公の造形は警察小説のセオリー通りのステレオタイプ。ベテラン刑事が危機に陥るという状況に加えて、伴侶であるスサンネとの間もギクシャクしている。

主人公の「警察の信頼に価すべく努める」という警官としての矜持と、スサンネの「あなたがどんなに頑張ったって、有り難く思う人なんていないのよ!」という不協和音は、薄味なヴァランダー以外の何者でもない。

猟犬というタイトルに、視野狭窄に陥りがちな捜査官を重ねる表現が何カ所かでてくるのだが、これもストレートすぎてやや野暮ったい。

ただ、北欧ミステリでもノルウェーの作品というのはもの珍しく(ジョー・ネスボもいるけど)、警察の組織とか内部の不正を審査する委員会とか、法制度なんかに関心を惹かれた。
なんでもノルウェーでは、偽造された証拠に基づいて有罪判決を受けた人が5年を超えて刑務所で過ごした場合、その被告(本書の場合主人公の刑事)は21年以下の懲役に処せられるらしい。

日本でも大阪地検特捜部が証拠改ざんした事件があったが、あの検事は懲役1年くらいで、執行猶予がついたはずだ。

 

 

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。