ローセの秘密が明らかに。そして重大危機に瀕する「特捜部Q 自撮りする女たち」

だいたいが私は北欧ミステリといわれる、暗〜い、陰惨、救いの三点セットものにはもう飽き飽きしている。
でも、ユッシ・エーズラ・オールスンの「特捜部Q」シリーズ(とミレニアム)は別格。

この手のエンタメ系小説は好みによると思うが、私にとっては文句なしに面白い。
おう、2,000円超のポケミスだろうが喜んで買おうじゃないの。
文庫化を待つ人もいるのだろうが、私は待たないし待てない。
文庫版は上下巻になってしまって、金額的には それほど変わらないのがオチだったりもするし。

なんと本作「自撮りする女たち」でシリーズ7作目にもなるというのに、依然として勢いは衰えない。
しかも、カールのトラウマとなっている事件もアサドの正体もまだまだ不明でお預けをくったままときた(笑)でも、ストーリーでぐいっと読まされてしまうのだ。
これは、もうわかっているのにみすみすハマってしまう罠ですよ、罠。

カール?アサド?それ誰何?という方のために補足しておくと、「特捜部Q」というのはデンマークはコペンハーゲン警察のコードルケース専門部署だ。
そこを率いているのが、我らが主人公(といっていいのか?)にして警部補のカール・マーク。そしてカールよりも存在感抜群なのが、彼の相棒たるアラブ系移民のアサドである。相棒といってもアサドは実は刑事ではなく雑用係。残るメンバーは事務職のローセと業務管理担当のゴードンという若者だ。

「特捜部Q」は名前こそ立派だが、オフィスは日の当らない地下で、刑事はカールのみ。アサドはこの地下に住んで日がな絨毯を広げアッラーに祈りを捧げる始末だし、ローセはローセで破壊的な奇人変人ときている。

このローセという女の子が登場したのは、確か2作目の「キジ殺し」だっただろうか。初登場時はブラックキャラがいささか滑りすぎて、「ねえ、ローセって必要?」と思ったものだが、いつしか山のようなコールドケースの中から扱う事件を選んで、やる気のないカールを脅して尻を叩くのが彼女の役割となり、その変人っぷりとともに抜群の存在感を示すようになった。
「Pからのメッセージ」での活躍ぶりに、彼女を見る目が変わった読者も多いだろうが、私も全くそのクチ。

今回はそんなローセに重大な危機が訪れる。
それとともに彼女の壮絶な過去が明らかになる。
ああ、ローセ、これまでただの変人だと思っててごめん・・・(涙)

物語を決して単純にせず、社会問題をレース編みのように複雑に絡めていくのがオールスンの手法だが、本書でもそれは健在だ。健在どころかこれまで以上に上手く編み上がっている。
重めの社会的テーマを扱うだけでなく、エンタメ性もほどよく織り込み展開できるのもオールスンの特徴だ。アサドのラクダネタとボビー・オロゴン(最近見ないけど)まがいの言い間違いネタのジョークはもう飽きたけども。

今回、本書で取り上げている社会問題とは、社会福祉に甘えるものたちのことだ。
日本でも時折生活保護の不正受給が問題になってるが、高福祉国家デンマークだからこそ、甘い汁を吸おうという輩はいる。
描かれているのは、「自撮りする女たち」というタイトルにも象徴されているように、見てくれだけは気にするくせに、地道に働こうとする意欲は全くない若い3人の女たちだ。

「自撮り」の意味を訳者の方は「他者に映る自分は何者か」と深く解釈しておられた。
私個人としては、インスタグラムをはじめとしたSNSに氾濫する「自撮り」の主は、基本的には「自分大好きな人たち」だと思う。自分を自分で肯定できるのは素晴らしいことだが、逆にもしかして自信のなさの裏返しなのかなぁとも思ってしまう。自己を他人の目を通して肯定してもらわなければならないというか・・・
私も他人のことは言えないし、なんか気持ちもわからなくもないけども。
本書に登場する3人の若い女たちにも、「自分」というものもなければ、若いというのに「夢」もない。

それとともに、彼女たちを許せない、罰してやるべきだという者も登場する。
極めて人権が重視される北欧諸国においては、どんなに重い罪でも終身刑止まりだ。社会に二度と戻ってほしくない殺人者でも、快適な精神科施設でいい暮しをしているではないか、とその人間は考えるのだ。

世界一幸福と言われる国に暮らしていても、満たされないものはいる。
高福祉の甘い汁を吸う彼女らは家庭環境に恵まれなかった等の理由もあるが、彼女らと対照をなすかのように、終始闘い続けてきたローセの姿は心を打つ。

ああ、もう次も絶対即買いしてしまうわ(苦笑)

  

 

 

 

 

 

映画化もされてます。

  

 



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