破門 / 黒川博行

Kurokawa.jpg最近はとんと国内作家のものを読んでいない。
今年に入ってからは橘玲タックスヘイヴン TAX HAVEN
くらいのもの…(汗)。
なので、直木賞候補作にもなっている本書を読んでみた。『タックスヘイヴン』同様Kindleで読めるのだ。
黒川さんは、ここ何年かずっと候補にあがっているし、大衆小説家としての実力も実績も他の候補者とは比べ物にならない。6度目の正直となるか…。
本書『破門 』は、へたれのカタギ二宮と極道の桑原の”疫病神シリーズ”といわれるものの第五弾だ。
とはいえ、私も読んでいるのは第一作目の『疫病神』 と本書のみ。作中に読むに必要な事柄は織り込んであるので、前作を読んでいなければ物語についていけないということはないし、特段気にする必要もない。
しかし、このシリーズはとにかく面白いので、折をみて他の作品も読みたいなぁ。なぜか色んな版元からバラバラと出ているのだが、いっそ全部Kindle化してくれればいいのに…!!!
ところで、彼はかつて グリコ・森永事件の犯人(の似顔絵)に似ているとか言われて騒ぎになったそうなのだが、こうしてみると似てないと思うけどなぁ…?
Macau.jpgさて、主人公の二宮啓介は、建築工事や解体工事の仲介をする建設コンサルタントだ。
コンサルタントといえば聞こえはいいが、しょぼい事務所で、オカメインコのマキと極めて質素につつましく暮らしている。審査が通らないため、クレジットカードすら持てない始末なのだ。
ビルやマンション、自治体による再開発の現場には何かとヤクザがつきまとうことが多い。そのためヤクザをつかってヤクザを制することを”サバキ”という。そのサバキが二宮の主な収入源だったが、大阪府の暴力団廃除条例で仕事は激減。母親から借金をして食いつないでいる。
そのサバキで知り合ったのが二蝶会の若頭、嶋田の配下の桑原だった。二宮の亡き父親は”二蝶会”という組織の幹部だったため、若頭の嶋田は、今でも二宮を啓坊”と呼んで可愛がり気にかけてくれている。方や、桑原はイケイケの極道で、関わるとロクなことにならない”疫病神”だった。
そんな二宮のところにまたもや疫病神がやってくる。嶋田がある映画に出資するため、シナリオをチェックしろというのだ。その映画は北朝鮮を舞台にしたハードボイルドもので、二宮は二度ほど桑原とともに北朝鮮に行ったことがあるのだから、アドバイスできるだろうというのだった。
だが、桑原と組むと大抵ロクなことにならない。
プロデューサーの小清水が出資金を持ち逃げしてしまうのだ。嶋田は映画の制作委員会にシマダカンパニーという名義で3千万の出資し、半金を支払済みだった。
失踪した小清水を追う二人だったが、桑原はヤクザものと諍いを起こしてしまう。だが、それは本家筋のヤクザだった。
本家筋の組は、嶋田のところに乗り込んでくるが、彼らは映画の制作委員会が振り出しの手形を持っていた。そして、その手形を決済してくれれば、桑原のことは不問にしてもいいという。手形の振り出しは制作委員会で、そのメンバーにはシマダカンパニーが明記されている。しかもその額面は1億5000万円なのだ。
とにかく小清水の身柄を押さえる必要があった。
追いつめられる桑原だったが、小清水を追う先でさらなる危機にみまわれ…
bird2.jpgとにかく、二宮と桑原の掛け合い漫才のような会話が笑える。このシリーズにファンが多いのも納得だ。
あの強面の桑原に苺柄のパジャマを着せてしまうなどサービス精神も富んでおり、読んでいて吹き出してしまうシーンも多い。電車の中など人前で読む時は注意したほうがいいかも。
しかし、単に笑えるヤクザ小説というわけでもない。大衆文学はかくあれというお手本じゃないだろうか。もしも本作ではなく、わけのわからんカッコつけ小説が直木賞を受賞してしまったとしたら、そりゃ買収でもあったのだろうとしかいいようがない。
ま、それは冗談として…。
関西弁もいいが、キャラの立ち方がまたいい。”疫病神”の桑原もさることながら、二宮だって相当なものなのだ。ちょっとお金が入ってくるとすぐ従姉妹の悠紀を誘って豪勢に繰り出すし、へたれなくせにちゃっかりしていて、ことあるごとに桑原の見栄につけ込み金の無心をする。読んでいるとどちらが本当に疫病神なんだか…
おそらく桑原はこのままじゃ終わらないんだろうなぁ。次作につい期待してしまう。
二宮のペットのインコのマキが口にする「ぽっぽちゃん」も気になることろである。
追記
この直後、無事直木賞受賞が決まったとか。
おめでとうございます!!!

破門 (単行本)
黒川 博行 (著)
KADOKAWA/角川書店 (2014/2/1)
469ページ
破門 (Kindleストア)

疫病神 (新潮文庫)
黒川 博行 (著)
新潮社 (2000/1/28)
524ページ

国境 (講談社文庫)
黒川 博行 (著)
講談社 (2003/10/15)
848ページ

暗礁〈上〉 (幻冬舎文庫)
黒川 博行 (著)
幻冬舎 (2007/10)
406ページ
暗礁〈下〉 (幻冬舎文庫)
黒川 博行 (著)
幻冬舎 (2007/10)
446ページ

螻蛄: シリーズ疫病神 (新潮文庫)
黒川 博行 (著)
新潮社 (2012/1/28)
756ページ

 

 

 

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