米保健衛生システムの機能不全を暴く「最悪の予感 パンデミックとの戦い」

マイケル・ルイスにハズレなし。

本書は世界中を混乱に陥れた新型コロナウイルスによるパンデミックを描いたものだ。

最悪の予感 パンデミックとの戦い

ルイスが焦点を当てたのは、今回のような恐ろしい事態に対処するため準備を進めていた知られざる英雄たち。
アメリカ最大の不幸は、彼らが政権中枢に近いところにいる人物ではなく、組織ピラミッドのずっと下にいる人や市井の研究者や医者だったことだ。

世界で最も豊かな国アメリカは甚大な被害を被ったが、実はワクチンもない未知のウイルスに対処する方法は、ブッシュ政権時代に練られていたという。
大統領が変わるとスタッフも総入れ替えになるなか、オバマ時代にもそれは維持されたが、トランプ政権になってお払い箱にされ雲散霧消となってしまう。

前半には「最悪の予感」に立ち向かうための具体策を練った人々個人のバックグラウンドや行動力が、後半は今ここにある危機に外部から働きかけ奮闘する様子が描かれている。

端的に言えば、アメリカの保健衛生システムは機能麻痺を起こしている。

解説はあの池上彰氏で、彼によれば新型コロナウイルスによるアメリカの死者数は、第一次世界大戦と第二次世界大戦を合わせたものより大きいそうだ。
アメリカは世界で最も豊かな国でありながら、莫大な被害を出した国と言って差し支えないだろう。

では、そんなアメリカでさえ、パンデミック不可避だったのか?と思いがちだが、実は備えるために準備していた人はいたのだ。その対策は数理モデルに裏打ちされている。

多くの人がマイケル・ルイスの本を評する時にあげるのは、そこに魅力的なドラマがあることだが、本書にもそれは当てはまる。
とにかく読ませるのだ。

彼ら”ウルヴァリンズ”を邪魔した最大の功労者はCDC(疾病対策機構)だろう。
CDCはもっと有能だと思っていたが、重要人物の一人であるチャリティが言うように、CDCは「疾病対策」という名称こそついているが、実際は患者を研究論文の対象としか見ない官僚機構という方が正しい。

そして、政権が変わると前任者の政策が否定され継承されないシステム。加えて、アメリカ政府の中に「箱」がいくつもあり、この「箱」ごとに異なる文化が根付き、硬直的になることだ。日本でもお馴染みの「縦割り行政の弊害」だ。

こうした失敗の教訓は、”ウルヴァリンズ”の初期の中心人物であるリチャード・ハチェットが言うように「政府は政権を超えた継続性を持ち、制度的な経験や知恵を蓄積した宝庫であるべきです」に尽きるのかもしれない。

翻って日本をみれば、初期の時点で安倍政権が学校閉鎖を行ったのは、ある意味正解だったんだろうなと思った。
本書のウルヴァリンズの対策の要は、初期の若年層の行動制限だったからだ。子供たちは学校で常に密な環境にあるし、彼らは重症化こそしないが感染しないわけではないしウイルスを媒介するからだ。
効果が分かりにくい面もあって、「子供は大丈夫でしょ!給食費も払ってるのに!」という声に押しつぶされてしまった面がある。

他方、高齢者の命を守るため、子供たちの学校生活が犠牲になり、インターハイや修学旅行も中止を余儀なくされたのは気の毒に思う。

五輪のメダルラッシュに沸く一方、感染者数は過去最高を記録。ハイリスク層の大半がワクチンを終えたことで死者数は少ないが、私たちの世代はまだまだだし・・・

ワクチン接種率の上昇とともに、重症者数死者数ともに抑えられていくのかなぁ。
ワクチンが開発されたことで、欧米は感染者数は依然として多いものの、すでに意識は違うのかなという感じだが、今後はどうなるのだろう。

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