深い疵 / ネレ・ノイハウス

いわゆる「ナチ」ものドイツミステリー。
ドイツものといえば、シーラッハや『アイ・コレクター 』のセバスチャン・フィツェック等、尖っている印象が強いが、こちらは割とオーソドックスな警察小説。

「ナチもの」でタイトルは「深い疵 」とくれば、どれだけ暗いのかと思うが、山村美沙的というかそんな感じ。

主人公は、オリヴァー・フォン・ボーンデンシュタイン主席警部と相棒の女性警部のピア・キルヒホフ。
オリヴァーはその名で分かるように貴族の家柄だ。上流階級に顔がきくが、本人はいたって気さくで庶民的。物腰も柔らかで、受付嬢の懐柔などもお手のものといういかにもめちゃ女性受けするキャラ。
一方のピアは、株で儲けた金で牧場を購入して犬と馬とともにそこに住んでいるという自然派。しかも新しい彼氏ができたばかりのリア充。悩みは妊娠しているわけでもないのにマタニティコーナーでドレスを買わなければならいことくらい。つまり太りぎみ。
そんな対象的な二人が事件を解決するという単純至極なストーリーなのである。


物語はゴルトベルクという92歳の老人が、自宅屋敷の玄関ホールで殺されるところから始まる。頭を撃ち抜かれており、ホールの鏡には血で綴られた数字が残されていた。
ゴルトベルクはホロコーストを生き延び、戦後ドイツからアメリカに渡って、歴代の大統領顧問を務めたユダヤ人の大物だった。
司法解剖に立ち会ったオリヴァーとピアは、老人の左腕に入れ墨を発見するが、それはナチの親衛隊の証だった。ユダヤ人のゴルトベルクがなぜナチの親衛隊の入れ墨をしているのか?

しかもこの事件は外交上の特別扱いになり、上層部から捜査中断の命令が下るのだった。
だが、悲劇はまだ終わらなかった。ゴルトベルクの知り合いの老人たちが、次々と殺害されたのだ。そして、皆、同様に後頭部を打ち抜かれていた。

オリヴァーたちは、ゴルトベルクの手帳に残されていたメモから、ヴェーラという女性にたどり着く。ヴェーラは、元男爵令嬢で戦争でその全てを失ったものの、夫とともに世界的な機械製作会社を築いたセレブだった。殺害された人々は皆、ヴェーラの古くからの知り合いだった・・・

ゴルトベルクにあった入れ墨から、容易に予想される通りの展開。
この手の”成り済まし系”の話は、最近ではドラマ『クローザー』でも観たばかり。
ストーリーでは「クローザー」に軍配があがるかな?

「ナチ」を題材にしたミステリは数多くあるが、本書には特に目新しいところはない。
ただ本書の魅力は「女のエゴ」の部分にあるのではないかと思う。
女性作家だけあって女性の描き方は巧い。ピアのキャラクターも素朴で女性目線では魅力的だし、老女ヴェーラのトーマスへの複雑な想いや、長男エラルドへの憧憬にも似た想いなども、女性ならではという感じ。

ちなみに本書はオリヴァー&ピアのシリーズの第三作目ということらしい
前二作はなんと自費出版であり、彼女の夫のソーセージ店で販売していたともいう。ソーセージ店というのがいかにもドイツらしいが、このバイタリティはどうよ?
本書にもそうした快活さと溌剌があらわれているかも。

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。