白雪姫には死んでもらう / ネレ・ノウハウス

シーラッハに端を発したドイツミステリブーム。私はこれって東京創元だけのキャンペーン(失礼!)だと思っていたが、米国でもドイツミステリー・ブームになっているそうだ。
横浜翻訳ミステリー読書会でも、流行が終わっちゃう前にドイツものをやっておかないと!ということで、今月の課題本は、本書、ネレ・ノイハウス『白雪姫には死んでもらう』 に決まった。

この『白雪姫には死んでもらう 』は、昨年このミス入りをした『深い疵 』と同じピア&オリヴァーのシリーズもの
しかし、シリーズといっても前作を読んでいないからといって別段不都合はない。そもそも『深い疵』だってシリーズの三作目なのだし。

 

さて舞台はドイツ、フランクフルト近郊の村アルテンハイン。
空軍基地跡地の燃料貯蔵槽から少女の白骨遺体が発見される。それは、トビアスが殺害したとされる少女のうちの一人ラウラの遺体だった。
トビアスは11年間、同級生の少女二人を殺害したとして投獄されていた。
被害者は、当時高校生だったラウラとシュテファニー。二人は97年のケルプ祭りの夜行方不明になリ、その二人が最後に目撃されたのがトビアスの家だったのだ。
警察は三角関係のもつれから犯行に及んだのだと判断した。二人の遺体は発見されておらず彼は無実を訴えたが、彼の友人たちの証言で裁判は不利に傾いたのだ。

そして今、トビアスは刑期を終えた。出所の日に迎えにきてくれたのはナージャただ一人。かつては歯の矯正器具をつけ男勝りだった彼女は、今では人気女優として成功している。
皮肉にもあの当時シュテファニーが演るはずだった「白雪姫」の代役が、彼女の才能を開花させたのだ。

トビアスの実家は廃れ両親は離婚していた。彼の弁護費用の工面のため、家も農場も村の有力者テアリンデンのものになっていた。さらに未だ父は村人たちからは嫌がらせを受けていた。
トビアスは11年前、本当は何があったのか突き止めると決心をする。

他方、村の食堂でアルバイトするアメリーもトビアスの事件の虜になっていた。素行の悪さから、ベルリンからこの村に追いやられた彼女は、身に覚えのない罪を背負わされるのがどんなことかをよく知っていた。そして、事件のことを独自に調べはじめるのだが…

このタイトルのキャッチーなこと!なにしろ「白雪姫には死んでもらう」である。グリム初版本の白雪姫は残酷な物語なので、それに準えたものなのかなと思っていたのだが、全然違っていた。
もっと女の嫉妬やイジワル系を想像してしまったのだけど、拍子抜け(苦笑)

今回、オリヴァーの家庭は崩壊寸前で殆ど捜査に集中できず、ピアはピアで自慢の白樺牧場にトラブルを抱えている。
さらに捜査本部にも内部分裂があり、本筋自体にもミスディレクションが多用されているため気がそらされてしまう。
サイドストーリーを盛り込みすぎて、枝葉がうるさいのだ。

しかし、逆に、こういったゴシップ性、通俗性が、ネレ・ノイハウスという人の持ち味なのかもしれない。
ほら、おばちゃんの話というのは、あちこちに飛ぶ。それで結局何の話だったんだっけ?ということになるのだ。
喩えるならそういう感じ(笑)

散逸していて訴求力に欠けるが、テーマは閉塞的な田舎のムラ社会に渦巻く、嫉妬や憎悪、保身といったものらしい。
解説で福井氏は、これを「組織化された正義の閉鎖性と排他性」と表現したが、これは、我々も属する会社組織などにもある程度通底するものがあり、身につまされる。

しかし、読後、深刻な気分にならないのは、やはりネレ・ノウハウスなわけで。
いうなれば、山村美沙的おばちゃん本です。

オリヴァー&ピアのシリーズは、それこそ「赤い霊柩車」のごとく長く続いていくだろうが、私はもうこれで打ち止めかな。

Spenth@: 読書と旅行、食べることが好き。