『二流小説家』 のゴードンが描く、駄目男が、そのコメディが、オタクぶりが好きだったなら、おそらくこの小説も好みではないだろうか。
さて、本書の主人公サムも『二流小説家』 のハリー同様、N.Y.の一流大学を出たものの、燻った生活を送っている。
自称小説家だが、実際は古本屋で働いて生計を立てていた。しかし頼みの綱の古本屋も潰れてしまい、追い打ちをかけるように最愛の妻ララも出て行く始末。
そんなサムは、就職支援サイトから私立探偵の助手の口を紹介される。
面接に出かけたサムを待っていたのは、超がつく肥満体の自称私立探偵のロンスキーだった。その場で採用されたサムは、便宜上ロンスキーが”ミステリガール”と呼ぶ女性の監視を命じられる。
胸と腰が豊満で、小柄な体型にココア色の肌をした”ミステリガール”は、心なしかララと重なる。 女を追ってサンフランシスコ近くのビーチに着いたサムだったが、そこで彼女は謎の死を遂げてしまう…
本書のテーマは、扉で捧げられたゴードンの「ぼくを惑わせた女たちへ」という一言に凝縮されている。 割とエロ路線だが、このエロさも不条理も、悲哀もコメディに溶け込んでいる。
やや冗長すぎるきらいもある映画や文学オタクぶりは、やっぱりゴードン。
蘊蓄を随所に差し挟みながらも、物語は意外な方向へ突き進んでいく。
キーとなるのはもちろん、“ミステリガール”の正体だ。
長い旅路の果てに明かされるこの真相を、やっぱりねと思うか意外だと思うか。
超肥満体だが頭脳明晰の私立探偵のロンスキーをはじめとして、ロンスキーの母親と家政婦、サムの親友ともいえるレンタルDVD店の店長にして希代の映画オタクのマルコなど脇役も個性的で楽しめる。
また作中、コーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ [DVD]』のデュードを主人公サムは自分に重ねているが、読者も、知らずサムに自分をみる。
この同一視ができるかどうかで、本書が面白いか否かは決まるのかも。
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