ジョイランド / スタィーヴィン・キング

 
キングには珍しく、文庫本一冊というお手頃なボリューム帯。キングは初めてという方にも手に取りやすいサイズ感だと思う。
また、キングといえば、「ホラーの帝王」のイメージが強いだろうが、今回は阿鼻叫喚のホラーは封印。なんと青春ミステリなのだ
 
Stephen-King-011.jpg 

物語の舞台は1973年のアメリカ。ニューハンプシャー大の学生である”ぼく”、デヴィン(デヴ)・ジョーンズは、その夏、ノースカロライナの海辺の町の遊園地でアルバイトをすることになる。

面接でデヴは、ジョイランドの占い師マダム・フォルトゥナことロジーから「あんたの未来にいるのは女の子と男の子で、そのうちの一人は心眼を持っている」と言われる。
60歳を超えた今思い出せば、マダム・フォルトゥナはこの日絶好調だった。

同じ下宿のバイト学生仲間、トムとエリンとも仲良くなる。

熱射病にかかりそうになりながらも、遊園地のマスコット犬ハウイーの着ぐるみを着て、幼い子供たちを喜ばせるのは、デヴにとっては楽しい仕事だ。

ある時、デヴは遊園地の幽霊屋敷(ホラーハウス)にまつわる噂を耳にする。過去にそこで殺人事件があり、殺害された女の子の幽霊がでるというのだ。
その女の子、リンダ・グレイは、歳の離れた男と一緒にホラーハウスに入ったのだが喉をかき切られて殺され、男は一人で何食わぬ顔で出ていったのだという。
帽子に濃いサングラス、砂色の山羊髭をはやしていた男は、ブロンドでさえなければ誰でも当てはまる容貌だった。
ただ一つ、手の甲にあった鳥のタトゥーを除いては。
しかも、その男はリンダ・グレイの他にも何人もの女の子を殺害していた連続殺人犯だった。

デヴは、マダム・フォルトゥナから「絶対にホラーハウスに近づくな」と警告を受けていたが、トムやエリンと一緒に肝試しとばかりにホラーハウスに入るが…
 
 
joyland1 
 
ほろ苦いデヴの失恋、トムとエリンとの生涯にわたる友情、そして、マダム・フォルトゥナの予言に出てくる男の子…
 

「ホラーの革新者」はなりを潜めているものの、キング小説の良さは十二分に堪能できる。
キングの良さとは、「読みやすい文章」「生き生きと描かれる登場人物」「真実味ある創作」だ

編集部による解説でも言及しているが、子供の描写にかけては他にない巧さ。
キング作品に出てくる子供は、その年齢よりも大人びていることが多いが、つい入れ込んでしまう魅力を持っている。
 
プロットそのものよりもキャラクターに重きを置いているのもキングの特徴だろう。
どこで読んだのか忘れてしまったが、キングの編集者が「作家自身の人生を生きているように読者に思わせることができるなら、その作家は天才だ」と言っていた。
それはまさしく本書にも当てはまる。
多少の年代や年齢、通っていた大学の違いはあるものの (キングはメイン州立大学卒)、デヴは、フィクション上のキングだといっていい
 
またキングの他の作品同様、「不思議な現象」は物語の重要な役割を担っている。マダム・フォルトゥナの予言然り、後半に出てくる男の子の能力然り、意外な人物の行動然り…
そして、そこにはキングならではの優しさが溢れていたりもして、ちょっとほろりとさせられる。
 
本書は、キング作品には珍しくミステリー仕立てになっているのも特筆すべきだろうか。

ジョイランド / スタィーヴィン・キング
昨年キングがエドガー賞を受賞したのには、それこそジョコビッチが初戦敗退したのと同じくらいのレベルで驚いたが、キングという人にジャンルの壁はないんだなぁ。 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。